【暴食】“決意”の別れ

第11話 後悔の友情 その1

 仲間を失っても、俺たちは戦わなくちゃならない。どこからか使命感が湧いてくる。


「早く拠点に戻らないといけない……もう暗くなる」


 疲れからか歩くスピードが鈍り、体も重くなっていた。ここは森。下手すると遭難する危険性だってある。


「地味な死に方なんてしたくないんだが……ん?」


 うっすらと炎が見える。恐らく、たいまつの火だろう。きっとあそこに人がいるはず、助けを求めよう。


「おーい! そこのたいまつ持ってる人~! 道に迷ったんだ、案内してくれ!」


 そう叫ぶとたいまつの炎は徐々に近づいてきたが、それを持っていた者と側にいた人物には見覚えがあった。


「お前、道に迷ったのか?」

「ハイエン……それにフルルか」


 茶髪のハイエンはやけに背が高く、2メートルほどある。騎士だって聞いたが、勝手に単独行動をして大丈夫なのだろうか。


「フッ……」

「おぉい! なに鼻で笑ってんだよ!? 俺たちは疲れてんだからしょうがないだろ?」


 フルルは喋る事ができないため、鼻で息を吹く事で笑い俺たちを小馬鹿にしてきた。ボブは突っかかっているが、助けがきて嬉しそうにも見える。


「…それで、青色に適応できる人間を見つけられたのですか?」


 ロプトはハイエンとフルルの二人に、青色の力を扱える人間を探すように頼んでいた。青色は水を扱う事ができ便利だからだ。


「こちらは水色を操る事ができる人間を見つけたのですが……早くも失ってしまいました。ですが、二つ目の黄緑色は入手しました」


 フロウスと血だらけで倒れていた蛇を思い出す。


「ああ、一見頼りないかもしれないが……ほら、こいつだ」


 ハイエンとフルルの間から現れたのは、青色の髪をしたまだ小さい女の子だった。しかしハイエンと同じく、黒い服の上に白い上着を羽織った騎士の姿をしているものの、サイズが合っておらず不格好な印象。


「……本気で言ってるのか?」


 ボブは驚きを通り越して呆れの顔になっていた。正直、俺も同じ気持ちだ。こんな女の子が戦いの重さに耐えきれるのだろうか。危ない仕事は俺達だけでやっておきたいのに。


「まあそう思うよな。チビだし」

「なっ……でもそんな事言えるのは今のうちですよ? 私はまだまだ成長期! きっとこれから背は伸びます!」

「お前まだ自己紹介してないよな?」


 食い気味にハイエンは話に割り込んだ。この男、女にも容赦ないんだな……


「……はいはい、すればいいんでしょう自己紹介。私の名前はランダル。年齢は15歳で、今はハイエンさんの弟子です、よろしくお願いします!」

「じゅ……15歳?」


 再び驚く。俺との年の差は四つだけだというのにかなりの身長差がある。


「年なんか気にしてたらキリないですよ? フルルさんも十五歳ですし」


 ……そう考えれば理解できなくもない気がする。とは言ってもやはりフルルとの身長も差があり、幼く見える。


「んで、戦えるのか? そこが重要だと思うんだが」


 さっきまで呆れ顔だったボブが、やけに真面目な雰囲気で話を進めていた。まあ、俺もまた同意見だ。


「フッフッフ、フが四つ……なめてもらっては困りますよ~。私、元海賊船長ですから!」

「はあ!?」


 三度驚く。今まではなんとか話を理解できたが、15歳で海賊を率いる事なんかできるのか?


「見ててくださいよ、私の力!」


 頭の中で思考を巡らせている俺に構わず、彼女は空にラウザーを掲げた。すると上下から刃が生まれ、薙刀の形となった。


「……」


 ランダルは急に黙り眉をしかめ、薙刀を見つめた。徐々に水が刃の周りに現れる。


「空気中に含まれる水分が集まってますね」

「へ~そうなのか。空気に水分ってあるんだな」


 ボブはロプトの言葉に関心していたが、俺と一緒に学校で学んだ事を忘れているようだ。


「でぇい! 水!」


 ランダルがそう叫ぶと、薙刀の先端から先ほどまで集めていた水が飛び出し、月に重なった。


「どうですどうです? 私すごいでしょう~?」


 彼女は俺たちに屈託の無い笑顔を見せてきたが、飛ばした水があらぬ場所に降り注いだ。水が何かに当たる音が聞こえた時にはもう遅かった。


「あのなぁ……」


 ハイエンだ。頭から水を浴びてしまっている。たいまつの火もなくなり、消えかかっている太陽の光だけがそこにいる人間を照らす。


「す、すみませんでしたー!」



 拠点に着いた。さっきはどうなる事かと思ったが、ハイエンがランダルの頭をこつんと叩いただけで済んだ。

 ロプトが扉を開け、俺も続いて中へと入ると、待機組は誰1人として欠けていなかった。


「……遅かったな」


 ワインドは気力の無い顔で声をかけてきた。


「……一つだけ言っておかなきゃならない事がある、実は──」

「わかってる。ここのモニターには水色の点が映っていなかった。つまりあいつはもう……」

「天へと誘われた、という事だろう……」


 エイモナも悲しんでいるようだった。幼なじみだって聞いたし、悲しむのは当然だ。俺も、ボブかペリロスが死んだら同じような顔になると思う。


「確かに水色は失ってしまいましたが、僕達は敵の青色と黄緑色を撃破しました。そして、この拠点にも敵が来たようですが……」

「ああそうだな、あいつを倒して空のカプセルに力を入れておいた。緑色だな。あと3人、ベージュ色とオレンジ色、それに茶色を使う奴らは取り逃がしたらしい」


 ペリロスはカプセルを手にした右手を見せた。


「んでその四つのカプセルに適応できる人間をもし見つけたら、さらに戦力を増強できるってわけだな?」


 もう一つのピンク色は俺と同じような能力なのかわからないが、黄緑色は聞いた話だとかなり強力な力を持っているそうだ。動物を操るだとか。


「はい。ですがこの黄緑色は使い勝手が悪いですね。自身が動物の体へと変貌する能力を持っていますが、一度に二匹までの力しか使えません。力は弱くなりますが、体の部位ごとに動物の力を発現させる……そうすれば、かなり幅が広がるでしょう。それに、このカプセルからは動物のカプセルも作れます。試しに……やってみましょうか」


 そうロプトは黄緑色のカプセルをラウザーに挿し込むと、すぐにまた取り出した。すると次々とラウザーからカプセルが飛び出してきた。床に転がった三本のカプセルを、ロプトは強く握りしめる。


「さあ、出てきてください」


 ロプトの声に呼応するように、カプセルからは二匹の動物が現れた。キツネとフクロウだ。本物の生物かのように動いている。


「うお……すっげえ!」


 ビーンは子供のような笑顔で二匹を眺めていたが、突如彼の顔面にフクロウが突撃した。


「いってぇ! 何すんだこの野郎!」

「そのフクロウはメスですよ」

「……んなもん関係ないだろ!」


 ビーンは飛び回るフクロウを無様な姿で追いかけている。呆れ気味の俺だったが、平和な光景に少しだけ慰められた。

 キツネはペリロスに懐き、猿は部屋の端で腕を組むハイエンの真似をしている。


「なんだか……癒されますね、動物というのは」


 走り回るビーンから避難してきたランダルが横で言った。


「ああ、お前もそう思うか、見習い」

「み、見習い!? 確かに私はまだ騎士見習いですけど……できれば名前で呼んでほしいです」


 不機嫌な顔で彼女は嫌味が混じったような声で願う。


「お前がハイエンを超えたら呼んでやるよ」

「それはけっこうハードルが高い気が……約束ですよー?」


 俺はランダルの問いに「ああ」と一言だけ答え、俺の体が現在ペスの体である事、今日起こった事を話した。


「なるほど、私と同じ色、つまり青色の人と戦ったんですね……。私はまだこの力に慣れてはいませんし、ちょっと見てみたかったな~」

「いや、あいつは確かに水を使っていたがお前とは違うタイプだと思うぞ。お前の水は細かったり薄かったりする水だっ……て、ロプトから聞いてた。だがあいつは1度に大量の水を操っていた」

「ええ!? って事は私はその人の下位互換……」

「そうでもないんじゃないか? 水が多いと大ざっぱにしか操る事ができなさそうだったし、水の量は少なくてもお前のは扱いやすそうだしな」


 そう励ましの言葉を送ると彼女は首を数回縦に振り、頭を上げた。

 最初は不安だったが、なんやかんやで受け入れられそうだ。俺たちが守りながら、こいつの成長を見ていけるといいな。


「もうそろそろ休みましょうか。ですがいつ敵が襲ってきてもおかしくはありません。見張り番は誰にします?」


 俺自身は疲れてはいないが、ペスの体はもう限界のようだ。いつでも寝られる。


「俺たち二人は普通よりは長く起きていられるみたいだぞ?」


 シャイニーとビーン。彼らの説明によれば血液を活性化させて常人よりも身体能力を上昇させる事ができるらしい。


「おっと待ちなされお二人とも。ここは私に任せてくれたまえ。何故なら私は……人間の身体を超越したからだ!!」


 直後にエイモナは地獄やら定命の者やらとあまり意味のわからない言葉を乱立し始めた。だが彼の言う通り、欲望の力で半ば無理やりだが長い時間起きている事はできるだろう。


「ああわかったわかった。お前に任せるぞ」


 ワインドはエイモナをなだめ、すぐに拠点の外へ連れていった。さすが、何年も付き合ってた仲だな。


「それと……残りの色もなんとかしなければいけません。ベージュ色、赤色、黄緑色、そして今日手に入れたもう一つの黄緑色と緑色。明日はこの色に適応する人達を見つけましょう」


 あと七人、か。今日だけでもかなりの人数を集められたから、なんとかできそうなのか?


「では、おやすみなさい」


 ロプトの声と同時に灯りが消され、夢の世界へと落ちていった。

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