第12話 黒幕の正体 その5
創造の白の力で創り出された火縄銃。それを不思議そうに見ていたショオの頬を矢がかすめる。
「……お前の相手は僕だ!」
ファランは動揺し矢の一撃を外したようだった。それをごまかすようにファランはショオに突撃し、ライオンの爪と弓が激突する。
「ほんとお前はしつこいな……! 敵の中でも人間味がある方だからまだマシか?」
ショオの猛攻にファランは防戦一方だった。さらにショオは腰に下げているラウザーに犬、猿、キジの順にカプセルを挿し込んだ。
「来い!」
空中に創り出された三匹は次々とファランに突っ込む。シヴァは足に噛みつき、ハヌマは頭を殴り、スザクは腕を口で突っついた。
「痛っ!」
姿勢を崩したファランの胸部をショオは殴った。
「ここだとあの二人に巻き込まれそうだ。場所を変えさせてもらうぞ!」
ショオはファランの弓を掴み、無理やり矢を発射させた。矢は建物の屋上に突き刺さり、弓に触れていた二人はそこに瞬間移動する。
「僕の力を利用して……!」
痛みと悔しさの篭った顔で睨みつけるが、ショオは表情一つ変えずにいた。
「お前達はショアを安全なところへ運んでいってくれ」
ショオが下を覗き込みながら命令すると、三匹はせっせとショアを持ち上げた。
「さて、これで思う存分戦えるってわけだ」
「……僕を、殺す気か?」
「殺しはしない。前からお前には気になってる事がある。それを確かめるまで、死なれては困るな」
*
ショオさんとファランさんの二人が屋上へ移動した事を確認し、カプセルを取り出す。
元々持っていたカプセルはノブナガ、ベンケイ、ムサシの三つだったが、いつのまにかリョウマのカプセルもそこにはあった。この国の、夜明け……? おそらく白の少女が創り出してくれたのだろう。
「……その呼び方はめんどくさいです、ちゃんと名前で呼んでほしいですね」
急に声が聞こえ、同時に肩に何かが乗っている事に気がついた。それには小さいモニタに鉄製の手足がついており、白の少女の顔面が映し出されている。
「私の名前はエボル。『EVOL』と書いてエボルです」
「なるほど、『LOVE』、つまりラヴを反対に並べて『EVOL』ですか。なかなかセンスいいですね」
そんな会話をしていると、倒れていた父さんがぎこちなく立ち上がる。失った脇腹に機械を代わりにはめ込んでいた。
「痛覚はあるはずですが……意思の白の力で過度に操られた人間はこんなになるまで戦うんですね」
「フィシュナさん、まずは創造の白の力に慣れましょう。カプセルスロットが増えた事で戦法のバリエーションも増やせます。ムサシのカプセルをセットした後、もう一つのスロットに赤のカプセルをセットしてください」
彼女の言う通りにラウザーを取り出し、まずはムサシを差し込む。
『ムサシ!』
ラウザーから鋭く光る日本刀の刀身が現れた。さらに左の掌にもう一本の刀が創り出された。
「それで、赤もセットするんでしたよね」
勢い良く赤のカプセルを差し込む。
『レッド!』
すると二本の刀が赤く熱く光った。温度は控えめのようで、手には少し温かさを感じる程度だ。
「ボルガさんのものよりは熱くない……彼が炎だとすると私のものは火というわけですね」
試しに振り下ろしてみると、火の粉が刀全体を覆った。
「問題や不具合は無し。ではいきましょう!」
エボルのロボットはバイザーに引っ付いた。他のカプセルもロボットの胴体部分に装着されており、スムーズにカプセルをセットする事ができそうだ。
「フィシュナ……残念だがレッドカード、『退場』だ」
父さんは両手の甲に鋭利な刃を創り、走り出してくる。
「レッドカード……ではこちらも赤色の力で対抗しましょうか」
右手に持った刀で防御し、その間にもう一方の刀で迎撃しようと考えた。
父さんは刃が届く距離まで近づくと、思い切り振り下ろしてきた。迫りくる二つの刃を刀で受け止め、もう一方の左の刀を腹部目掛けて一閃する。
「ぐぅ……っ!」
肉が切断される感触を刀越しに味わうが、火の粉の追撃もあり新鮮な感覚だった。
「……しゅっ」
刀を引き抜き、自身も後ろに退く。父さんはまだ両足で立っているが、体は震えていた。
「まだ、だ……我らが王のために!」
死んだように生きているその目を見て、憂いと呆れの視線を向けた。自分もついさっきまではあんな目をしていたのだろうか、そう思ってしまった。
「フィシュナさん、来ますよ」
エボルの言葉で正気に戻る。父さんは切断された腹部に機関銃を創り出し、一斉に発射してきた。
「間に合わなっ……」
「ここは私が!」
エボルのロボットが自らカプセル型に変形し、ラウザーのスロットに滑り込んだ。
『エボル!』
硬直していた体が突然動き、さらにベンケイのカプセルをセットした。
『ベンケイ!』
様々な太刀を空中に創り出し、銃弾と太刀を相殺させる。二つは激突から間もなく消滅した。
「ちょっと体借りますよ」
私の口からエボルの声が発声される。アランさんの体をシュウさんが乗っ取ったものと同じ原理だと推測する。
「あちらの弾が尽きるのが先か、ベンケイの千本刀が尽きるのが先か……ギャンブルのようなものですが、こういうのは好きだったりします」
事情を知らない人間からは独り言のように見えてしまうが、彼女は私に話しかけている。余裕の態度を見せているエボルだったが、突然銃撃が止む。
「……?」
私の顔でとぼけたエボル。戦闘による砂埃に紛れて、父さんは死角から走ってきていた。
『コブラ!』
エボルはロボットカプセルの小さいレバーをスライドし、コブラカプセルの力を発現させた。
「無駄ですよ」
『エボルコブラ! ベンケイ!』
音声が鳴り響くと、ベンケイの力によって創り出された太刀に蛇の頭が次々と現れた。刃の部分が蛇となった事で斬る攻撃には利用できないが、毒によるダメージには期待できる。
「かわいい蛇さん達、索敵お願いしますね」
自身の周囲8方向に刀を固定したエボルは目を閉じ意識を集中させた。蛇と感覚を共有しているため、実質9人に分身したようなものである。
「そこっ!」
カッと目を開き、背後の蛇を振り下ろした。父さんはすぐそこまで近づいてきており、その一撃は上手く直撃した。蛇の牙が父さんの首に刺さっていき、そこから毒が入り込む。
「ぐ……ぐおっ……」
体に異物が入っていった事に父さんは動揺したのか、その場に倒れ込んだ。
「もう立てる力は残っていないようですね。フィシュナさん、体返します」
直後にエボルロボットカプセルはバイザーからすっぽ抜け意識は戻った。急に体の感触を取り戻したため、私は転びかけてしまう。
「……いきなりこんな事するなんて、関心しないですよ?」
バイザーにひっついているエボルのカプセルを見つめ、苦い表情になる。
「まあ、助けてくれた事には感謝します」
そう礼を告げると、カプセルはロボットに変形し肩に飛び乗った。
「やはり誰かに礼を言われるというのは嬉しいですね……。というわけで、今後も体は借りていきます」
私はムスッとした表情に変わり、明らかに不安増し増し。だけれどそれは、同時に豊かな感情を取り戻したとも言えて悪くは無い。
「……それで、この男はどうするんですか?」
エボルは倒れている父さんの上に乗る。体には神経毒が回っており、しばらくしたら死に至るだろう。
「父さんもファラリスに意思を操られています。私の意思を元に戻したように、この人も元通りにしてもらえますか?」
だがモニタに映るエボルの顔は悲しそうな表情になり、フィシュナも悟った。
「あなたを元通りにできたのは、私とあなたが一体化できたから。でも、この男とは一体化できません。残念ですが。……ひとまず毒は抜いておきます」
エボルカプセルの小さいレバーが動き、コブラの力は消えた。父さんは既に気絶しており、しばらくは目覚めないだろう。
「この人はこれでも私の父親でした。ファラリスを倒すまで、ここでじっとしていてもらいましょう」
エボルロボットも頷くと、再び肩に乗ってきた。
「それで、他の色の所持者に事情をどう説明するんですか? 私はついさっきまであの人達の敵だったんですよ?」
「……実はそこまで考えて無かったりします」
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