第7話 紫の欲望 その11

「ハハハッ……俺の力を教えてやるよ。俺の体は俺の欲に従う。『お前の攻撃を避けたい』っていう欲望があったから俺の体はそれに従っただけだ。……まあ、その時の欲以外の事はできないんだけどなあ」

「あくまで体が従うってだけだから、メリーの強制的で急な突風には体が対応できなかった、ってわけか」


 ビーンが傷だらけの顔を抑えながら話す。結構痛そうだ。


「……さっきのゴブリン達との戦いを見た時から感づいてた。反撃しないのは何か理由があるってね。タネが分かったら簡単に対応できる……私には勝てないよ」


 さすがメリーだ。……あれ? このままカイザが倒されたら、次に殺されるのは僕なんじゃないか? カイザ……頑張ってくれ……!


「真正面から挑んでも勝てねえな、なら人質を取るか」


 カイザは僕達全員を見ると、僕へと走り出した。まさかよりによって僕を人質に……!?


「まずは腕一本砕いてやるよお!」

「う、うぁ……」


 あまりの気迫に腰が抜けたのか、体が思うように動かない。こちらに迫ってくるカイザを見つめる事しかできなかった。



「やめろおおおぉ!」


 目を瞑ったその刹那、右の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。次の瞬間には僕のすぐ側まで近づいていたカイザは巨体に吹き飛ばされていた。


「大丈夫かアラン!? これはどういう状況だ……?」


 彼を吹き飛ばしたのはボビーと、それに乗るボブだった。後ろにはフルルも乗っており、相変わらず全身黒ずくめ。


「おいおい、かなり人使い、いや象使いが荒いんじゃないか? フルルが落ちそうになってたじゃねぇかよ~」


 カラスの幽霊がクレームを入れている。


「今はそんな事気にしてる場合じゃないだろ。……まずはあいつをなんとかするぞ」



 その後、僕達は全員でカイザを倒す事にした。メリーがカイザの力を見抜いてくれたおかげで、かなり優位に立つ事ができている。だがレイは立ったまま何もしていなかった。この調子なら彼を倒せる。


「ビーン! 二人で一緒に攻撃するわよ!」

「あいよ~!」


 シャイニーとビーンが連携攻撃をしかける。しかし息は合っていたが避けられてしまった。だがカイザが二人に気をとられている内にボブが脇腹に攻撃を命中させる。


「この鞭の変則的な軌道はさすがのお前でも読めないだろ?」


 ボブの武器は鞭だ。しなやかさを保ちながら頑丈に出来ているように見える。あの鞭でボビーを調教してきたんだろう。


「それにしても、調子は大丈夫なのかアベル?」

「今はかなり危険だ。そろそろ限界……おいロプト。まだ見つかってねえのか? 肉体を自由に変化、生成できる、トップクラスの力を持つベージュ色のロストを与えられる人間を」


 そういえば、アベルって義手だったな……だから調子が悪かったのか? ロストの力なら、アベルの腕を元通りにする事も容易いかもしれない。


「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!」


 カイザが地面を叩き割り瓦礫が飛び散る。アベルの斧に直撃したのか、僕の足元にラウザーとカプセルが転がってきた。これを使ったらどうなるんだろう。もしかしたら今よりずっと強い力が手に入るかもしれない。僕はラウザーを掴んだ。


「ぐあっ!? があぁぁっ!?」


 体中に激痛が走り、その場に倒れ込んでしまった。無くなりそうな意識を何とか保ち、地面に手を着いた。


「おい何やってんだ! 最初に手にしたロスト以外は使えないんだぞ」


 アベルは僕の手元に落ちたラウザーを拾い上げ、アベルは僕に手を差し伸べる。


「ほら立てよ。もう仲間は失いたくねえんだ」


 冷たい鉄の手を握る。でもアベルの心の暖かさはなんとなくだけど感じられた。カブトのゴブリンの件で少し疑ってたけど、きっと何か事情があるんだろう。


「それにしてもカイザ、全く倒れそうに無い……また欲とかいうやつなの?」


 他の仲間達と対峙しているカイザを見つめる。何も変わった様子はないが、彼の力は外見に現れないから分かりづらい。

「もしかしたら、『痛みを感じたくない』と思っているのでしょうか。それならあのしぶとさも頷けます」


 後退してきたロプトに共感する。僕もちょうどそう思っていた所だった。


「……先ほどの話ですが、実は一年前にベージュ色に適応できる人間を見つけ、ロストの力を差し上げました」

「は、はぁ? じゃあなんで俺にその事を伝えなかったんだよ?」

「あなたのその状態がいつまでもつのか見たかったからです。もし力尽きてもロストの力を使えばいいわけですからね」


 アベルは呆れたようで、不機嫌そうにカイザに突撃していった。


「八つ当たり……かな?」

「意外とあいつはストレス溜めるタイプだからな。発散したいんだろ」


 やっぱりアベルは信用できる。メリーやカイザみたいに人間離れした人間じゃあないし、こんな僕にも手を差し伸べてくれた。いつか、恩返ししなくちゃな。


「今だよボルガ! 植物さん達が動きを止めてる間に!」


 植物のツタがカイザの体に巻きついている。あれなら流石のカイザでも動けないだろう。


「レイを……返してもらうぞ!」


 しかしボルガが剣を振り上げると同時に、視界の隅にいたレイが動き、カイザの前で止まる。決意は急には止まれない。ボルガの斬撃は、レイの体を切り裂いた。


 レイの体はゆっくりと倒れ、ちょうどカイザの足元にレイの顔が。


「レイ……なんで俺なんかを庇って……?」

「……だって、初めてだったもん。私と同じような境遇の人と会うのが……。カイザは私と同じ……理解者だから、失いたくないよ……!」

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