第10話 創造の白 その4
三人を捕らえた俺達は小屋まで戻り、事情を説明する事にした。そうでもしなければ、どちらかが怪我をする事になるだろう。
「俺は拷問なんかで吐く男なんかじゃあねーからな……?」
「ああ門番よ、私を早く地獄まで連れていってくれたまえ……」
「はぁ……」
屋根に雨が溜まっていたのか、湿っている木製の天井から雨粒がぽつぽつと落ちてきている。同じく床も木で出来ているため、湿ってきて気持ちが悪い。
「ところでクスリでもキメてんのかこいつは? さっきから地獄地獄うっさいぞ」
さきほどからずっと喋っている男に対し、ビーンは苦言を吐いた。だが男は反応せず、そのまま意味の分からない言葉を放ち続けている。
「ところでよ、さっき見せて貰ったあれはなんなんだ~? ナイフから小さい雷みたいなのが出たり、突然後ろに回り込んで鎖巻いたりさぁー!」
ビーンは俺に近寄り、顔も寄せてきた。するとそれが気に入らなかったのかシャイニーは彼の首を掴んで引っ張り、そのまま両頬をつねっている。
「なんならあなたにも、さっきの力をあげる事はできますよ?」
「えっマジ? マジで!? ちょうだいちょうだい!」
ビーンが迫ると同時に、ロプトはビーンにラウザーとカプセルを投げ渡した。軽々とキャッチすると、今度はシャイニーが口を開く。
「ビーンと同じの、私にくれない?」
ロプトは黙ったままシャイニーにも投げ渡すと、二人はラウザーにカプセルを挿し込んだ。
「うひょ~……。体中の血液が興奮してるぞ……!」
「これは……いいかもしれない」
二人の髪の毛がさらに赤黒くなった気がする。一見不気味だが、よく見てみると意外と綺麗な色だったりもする。
「さて……事情、話さないとな」
俺は最初に「この戦争を止めたい」という想いを伝えた。初っ端からロストの事を話してとこの兵士達は理解できないだろうし、信用もされないだろう。すぐには俺の言葉を信用してくれなかったが、そこにペリロスが割って入った。
「あんた……さっき『誰かを殺してしまっては復讐の連鎖が起こる』って言ったよな。俺も同意する。だから……俺達の仲間になってくれないか?」
低い声が三人の体に響き渡る。こいつらを仲間にするなんて考えていなかったが、一緒に戦ってくれる奴が増えるのは歓迎すべき事だ。
「何言ってんだ……! 例え俺達が仲間になったとして、この人数で何ができるっていうんだ!?」
真っ先に反論したのは、まだ若い外見の兵士だった。必死に体を動かし鎖から抜け出そうとしているが、頑丈な作りのそれはびくともしていない。
「……戦争を止める方法が、あるのか?」
「はい。この戦争には間違いなく、他の『白』が介入しています」
隊長格の男の質問に対してロプトは即答したが、兵士達はぽかんとしていた。それもそうだ。唐突に『白』という単語を聞かされても理解できない。まあ、俺も詳しくは知らないが。
「僕達が使っている『白』の力……ロストをあなた達にも使わせてあげます。あなた達と一緒に、この戦争を終わらせましょう。『正義』『欲望』『嫉妬』です」
ロプトは無表情で語りながらバイザーとカプセルを三人に渡した。既にカプセルはほぼ挿し込んである状態だったため、彼らが手にした瞬間、代償の効果が現れた。
「ぐっ……!? うおお!!」
「なんだ? これは……?」
「俺はなんとも……寒っ!?」
隊長格の男は緑色に、若い兵士は水色に、何か意味のわからない事を喋っている兵士は紫色へと髪色が変わった。
更に隊長格の男の左目が弾け飛び、水色の髪となった兵士は寒がっていたが、紫色の髪となった兵士の体にはなんの変化も無い、が身体を震えさせそわそわしている様子。
「無事に適応したみたいですね」
少なくとも左目が弾け飛ぶのは無事とは言えないと断言できる。
「……俺はお前達を信じる事にする。というか、信じざるを得ないな、こんな力を実際に手に入れたら」
「おお……! 地獄に行くのではなく、私自身が地獄の門番になれるのだな!」
ワインドと名乗った隊長格の男と、エイモナという名の紫色の髪の男は納得し、快く仲間になってくれたが、水色の髪の男は窓から空を見上げたまま答えない。
「俺は……まだ信用していないからな。あくまでも、俺の仲間達に着いていくだけだ」
まあ、そう考えるのも無理はない。これから信頼を得ていくのは大変だが……できるだけ、頑張ってみるか。
「早速ですが、あなたに頼みたい事があります」
「ああ? 乗り気じゃない俺から、なのか?」
「……あなたの色は『水色』、つまり氷の力を操れるんです。他の二人の色とは違いかなりの広範囲攻撃を繰り出せます。それも遠距離から。アベルさんとボブさん、僕とあなたの四人で行動しましょう。残りのあなた達はここで待っていてください」
ロプトはラウザーから鉄板や機械を創造し、小屋を覆い強化した。水道まで完備している。
「うおお……すっげぇ!」
「ロストってのはこんな事もできるのか」
小さいラウザーからこれだけのものが出てくるのは不思議だが、今はその事を気にしている場合じゃない。ロプトの動きは速く、少し焦っているようでもあった。
「センサーで他の『白』の色達の方角は分かりましたが……そうなるとあちらも僕達に勘づいているでしょう。ここを拠点とするので、何としても守ってください」
彼は決意している顔だった。自分や、他の人間の命を失ってでも戦争を止めるという決意が感じられる。
「目標はここから南にある街です。そこ以外に街や村は無いので、敵が潜んでいると推測できます。ですが僕はここの防衛システムを維持するため、普通の人間とほぼ同等の状態になってしまいます。ですから、あなたに僕を守ってほしいんです」
「……へえ。どうやら話を聞くに敵も同じような力を操るらしいな。そして、その敵の力も利用できるかもしれない。これ以上の力を手に入れられるんだろ? だったら、気に食わないがやってやるよ……!」
男は立ち上がり、ロプトを見つめながら話す。もしあいつがもっと強くなったら、俺達を裏切りそうだが……
「じゃあ、色の力を持っていない俺と、本来の力を出せないロプトがなんで行く必要がある? 足でまといになるだけなんじゃないのか?」
ボブが自虐気味に質問すると、すぐに返答は返ってきた。
「きっとあの街に住んでいる人達にも被害が出てしまうでしょう。これ以上、関係の無い人達を危険に晒すわけにはいかない、そうでしょう? だから僕とボブさんで避難経路へ案内するんです」
「そうか……わかった」
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