サイドストーリー ボブ編
グリーを倒す事に成功した僕達は、村の宿の前でアイス・ゾーンという街へ行くための準備をしていた。少し疲れているが、全く動けないという程では無い。
「そこに氷のカプセルがある可能性は高い……って事だよな?」
ボルガは荷物を纏めたリュックを背負い、アベルに話しかける。
「ああ。三年前にそこで仲間の一人、水色のロストを使ってたフロウスって男が死んだんだ。それから同じ時期に氷が発生したんだろ? つまり誰かがそのカプセルを使ってるかもしれないんだ」
話を聞いているとなんだか、僕だけ置いてかれているような気がした。僕も、二人と同じようにロストの力を持ってるっていうのに。
「またボブに頼むか」
アベルがそう言いながら辺りを見回すと、偶然ボブが近づいて来ていた。
「ボブ! また頼めるか?」
「いいや……一時間後に、他の人を乗せる事になった。ごめんな!」
象に乗りながらボブは頭を下げている。象の鼻の先も下がっているように見えた。
「そうか……だったら歩いていくしかないな」
それを聞いて僕は軽く絶望した。歩く事は好きじゃないんだ。
「……んー、そうだ! まだその人を乗せるには時間があるし、俺と一緒に飯でも食うか?」
「いやでも、ボルガの熱が……」
僕は無意識に反論してしまった。ボブの提案に乗れば、少し休めるはずなのに。
「いや、まだいい。グリーのカプセルを握ってると、熱が少し抑えられる気がするんだ」
そう言ってボルガは右手に握ったカプセルを見せてきた。それは黒く濁っている。
「……悪いが、アランとボブだけで行ってくれないか? 俺はボルガと二人で話したい事があるんだ」
「え? ああ……。わかった、よし行くぞアラン」
僕は差し伸べられたボブの手を掴み、であるボビーの背に乗ると、すぐに歩き出した。アベルとボルガが気になり後ろを向くと、二人の会話が少しだけ聞き取れた。
「それで、あの事はまだ話してないのか、アランには?」
「ああ……あの色に適応できる人間が見つかるまでは」
そこまでしか聞き取れなかった。アベルは何か僕に隠し事をしている。そこまでしか。
*
「まだ朝飯食べてないんだろ? これ奢ってやる!」
平凡な定食屋のテーブルで待っていた僕に、ボブはパンと野菜スープを持ってきてくれた。
「いいの?」
「もちろんだ。俺はこれでも、結構貯金あんだぞ~?」
財布からジャラジャラと音を鳴らしながら自慢してきた。
「ああでも、パンは半分くれよ?」
するとボブは僕の手元にあったパンを素早く掴み、両手で半分にちぎった。その半分を僕の口に向けて伸ばしてくる。
「ほら口開けて……あーん、だ」
「あ、あーん……」
特に拒否する事もなく、僕は差し伸べられたパンに齧り付いた。小麦の匂いと、ボブの指から付いた匂いが口に広がる。
「……汗、かいてた?」
僕はパンを噛み砕きながらボブに問う。パンの表面に歯が当たった時になんとなくそんな気はしていたけど。
「そりゃそうだ。象使いってのは結構汗かくんだぞ?」
開き直ってきやがった。人の汗を舐めた気持ちも知らずに。まあでも、耐えられないわけでは無い。
「……俺からも質問するぞ? さっき、『ドミネーション』のピンクの奴を倒したらしいな?」
スプーンでスープを掬い、口に運びながら黙って頷く。と言っても、僕はあのピンクの男については全然知らない。
「怪我は……無かったのか?」
ついさっきの態度とは違い、急に僕の心配をしてきた。口に含んだスープを飲み込むと、再び頷いた。
「そうか……なら良かった。ロストを持ってる奴はあいつらに狙われるんだよ。そう、命までも……」
ボブは意味深な言葉を発し、哀しい表情へ一変した。
「……アベルが、仲間が何人かやられたって言ってた。もしかしてボブとも知り合いだったの?」
正直に思った事を話すと、彼は僕の目を見て少しの苦笑いを見せてきた。
「特に仲が良かった奴の中だと……俺の親友と、アベルの親友だな。それと、俺の家族だよ。その内一人はまあ、まだ死体すら見つかってなくって、もう二人は完全に死んだとは……言い切れないな」
僕は急に申し訳ない気持ちになった。目の前であんな哀しい表情をされたら、なんて返したらいいかわからなくなる。
「……そんなシケた顔すんなって! スープが冷めちまうぞ?」
ボブはそんな事を僕に言っていたが、彼の右手の力が強いせいで、僕のスープ以上に、彼のパンがダメになっていたように見て取れた。汗も合わさって、崩れてる。
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