第6話 黒き灰の野望 その3
ベッドの上で目が覚める。自分の体に異常が無いか確かめ、何も変わった所は無く安心した。
「あいつ、ボルガに傷をつけるなんて……次会った時は仕返ししてやる!」
「大丈夫だ……そんなに大した事無かったし、それよりレイは大丈夫か?」
「まだ痛いよ……だいぶ収まってきたけど」
二人もメリーにやられたのだろうか。だとしたら、僕のせいだな。なんとか誤魔化そう。
「アラン起きたか。あいつ、去る時に『お兄ちゃん』って言ってたが、あれはどういう事だ?」
だめだ。アベルからの問いを誤魔化せる気がしない。無言を貫く。
「……言いたくないなら別にいいぞ。人の気にする過去に踏み込むのはこっちも嫌だからな」
心の中で右手を上げる。これで問題は無い。
「アベルさんに言っていたものができましたよ。ついでにみなさんにも話しておきたい事が」
グレーの色の髪をした少年が部屋の奥からカプセルの入った箱を持って来ていた。後でカプセルを借りよう。
「みなさんにはカプセルの強化や、新しいカプセルなどを与えます」
強化……もっと強くなったら、メリーも退けるくらいになるのか?
「あなたは……アランさんでしたよね。ではあなたにはこれを」
白いカプセルだ。読めないが文字のようなものが刻んである。
「今あなたが持っているカプセルの元のカプセルです。これともう二つのカプセルを組み合わせて作りました。元のカプセルの力を引き出せれば、更なる力を手に入れられますよ」
ラウザーに渡されたカプセルをセットする。だが、何も起こらない。何故だ? 僕は力が欲しいのに。
「……どうやら彼はアランさんを拒んでいるようですね。」
「彼? どういう事……?」
「これには元となった人間がいます。彼のコードネームは、『復讐』……。このカプセルの中には彼の意思がありますよ」
意思? つまりこの中の人間の意思は僕を拒んでるのか?
「なんでだよ……なんで僕に力をくれないんだよ! そっちにはデメリットなんてないだろ!?」
「彼はアランさんの意思には同意できないようです。……どうしますか? あなたのカプセルの元となった物は少し特殊で……もうひとつ、『復讐』のカプセルがあるんですよ」
ロプトから黒いカプセルを渡された。禍々しいオーラが感じられる。でも、何故だか安心する。僕と同じ意思を持っているみたいだ。
「ああ、使うよ」
ラウザーにセットしようとしたその時、手が止まった。自分でも意味がわからなかった。視線を感じ、さっき渡された白いカプセルに目をやる。……何か伝えようとしているような雰囲気だ。まあいい。力をくれない頑固者なんて気にしてはいけない。僕はすぐにカプセルをセットした。
「うっ……!?」
一瞬だけ頭痛が襲ってきた。副作用か何かかと思ったが、それ以外に何も変わった様子は無い。どういう事だ? 力が手に入るんじゃなかったのか?
「じゃあ次です。ボルガさん、レイさん。あなた達にはこれを」
ロプトは僕をほったらかして二人の元へ歩いて行った。なんの力も手に入れてないのに。復讐が捗るはずなのに。
「ファイアカプセルとアイスカプセルです。これで片方が死んでも力を抑えられますよ」
それまで無関心だったレイがロプトを睨む。生まれて初めて優しくしてもらったボルガが死ぬなんて、冗談でもレイは嫌な気分になるだろう。
「ありがとな。これで別行動をしても大丈夫だ」
ボルガのその言葉を聞いてレイは無表情に戻っていた。もし別行動をとったら別の問題が生まれそうだけど。
「ショアさんにはこれを。あなたのお兄さんに渡したカプセルの元ですよ。あなた達兄弟以外には使用できない代物ですけどね」
箱の中に大量のカプセルがある。あのカプセル全てがショアの物になるのか? だとしたら少し羨ましい。
「あ、ありがと……じゃあ早速試してみよっと」
白いカプセルがラウザーにセットされた瞬間、一匹の狼がショアの目の前に現れた。
「わあ……これって、動物さん達を呼び出せるの!? もっとやろっと!」
次々と動物が飛び出す。犬、猫と最初は小規模だったが、熊や像、さらにはゴリラまで現れた。
「みんな押さないで……流石に痛くなってきたよ……!」
呼び出された動物達はショアに向かって行き、愛情表現をしていた。ゴリラが寝転び、腹の上にショアを乗せる。犬と猫が舌でショアの顔を舐め、像が鼻で足の裏をくすぐっていた。熊は頭を撫でている。
「うぁ……ちょっと、助けて~……」
既にショアは動物で埋もれていた。一瞬だけ見えた顔は笑顔で嬉しそうだった。
……僕は、熊にあれだけ近づかれるのは嫌だな。
「次ですね。アベルさーん」
ロプトは助けを求めるショアを無視した。僕はあんな大きな動物には近寄りたくない。
「あなたには……レイさんの事を──」
それをかき消すように轟音が鳴り響いた。すぐ近く、建物の外だ。
「……どうやらこんな事をしている場合ではなさそうですね。行きましょう」
一番最後に建物を出ると、墓地の奥の林に人間と同じくらいの図体のゴブリン四体が待ち構えていた。その中にはミーナ達の姿もある。
「また会ったね~今度こそやってやる!」
「こら、油断してるとグリーみたいになっちゃうよ~。ただでさえあんたは目が離せないっていうのに……」
カマキリのゴブリンであるキリと、トンボのゴブリンのフライもいる。かなり力を入れてきているみたいだ。
「……さっさと目的のモノを奪って帰るぞ」
それを聞いた他のゴブリン達は臨戦態勢をとっていた。真ん中に立つ長身のあいつがリーダーか? 頭には大きなツノが生えている。カブトムシ……?
「そちらは四人ですが、こちらは八人。二倍の戦力がこちらにはあります。本当に戦うのですか?」
そうだ。二倍の人数に勝てるわけがないだろう。僕は戦いたくはないが、他の人がやってくれるだろう。
「思ったよりも多かったな……ならこいつらを使う」
カブトのゴブリンが口笛を吹くと、林の奥から蟻のゴブリンが大量に押し寄せてきた。
「……前言撤回です。フルルさん、周りの小さいのは任せます。みなさんはご自由に戦ってください」
ロプトは建物へと戻って行った。何をするつもりなんだ?
「俺とレイはミーナをぶっ潰す、いいな?」
ボルガの怒りで周りの温度が高くなっているのを感じる。
「ショア! 俺と一緒にあの一番弱そうな奴倒すぞ!」
「あ、うん。あのカマキリさんみたいなゴブリンさんだよね?」
二人も行ってしまった。残ったのは僕とアベルだけ。ゴブリンも残った人数が二人。つまり僕も戦わないといけないのか……アベルが二人まとめて相手してくれるなんて都合の良いわけ……。
「お前はまだ休んでおけ。俺が二人の相手をする」
「えっ、大丈夫なの?」
アベルは頷きゴブリン達へと向かって行った。罪悪感を少し感じた。……援護くらいしようかな。
*
「ミーナ、お前がランダルのかつての仲間だったとしても、俺はお前を許す事ができない。俺の親友を手にかけたからな……!」
「グリーを死なせたのはボルガ、あんた自身じゃあないか。……そんな事より、私はレイを奪いに来たんだよ。レイの力を使えば、この国を氷漬けにする事だって容易い! 頂くよ!」
ミーナは空高く舞い上がり、俺の背後に立っているレイへと急降下する。
やっぱりグリーの事なんて……考えてもいないか。
剣に纏わせた炎をレイの頭上に飛ばした。レイを目視できないようにし、レイの前に立つ。……あいつがここに突っ込んでくるのと同時に、二人で反撃をすればいい。リスクはあるが、早く倒せるに越した事はない。
「……がら空きだ」
その声を聞いた時には、既にレイは吹き飛ばされていた。カブトのゴブリンがツノから衝撃波を放っていた。
「レイ!」
俺は振り返ってしまった。ミーナの毒針が迫っていたにも関わらず。次の瞬間、左手首に鋭い痛みが走る。……迷っている暇は、無い!
「ぐあああ!!」
思い切って手首を剣で切り落とす。痛みで気絶しそうになった。落ちている手と、止まらない血。なんとか気を保ち、高熱の剣で止血する。
「私のせいで……!」
僅かに聞こえたレイの声。それを聞いた俺は安心したのか、ゆっくりと倒れ、意識が遠のいていった。
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