サイドストーリー 『ドミネーション』編
「あいつらが使っていた力……いったい何だったんだ?」
倒壊したコロッセオの会場にて、二人の男は互いを見つめていた。彼らはコロッセオの運営チームで、色の力と本格的に遭遇するのは初めてだった。
以前からトーナメントに参加していたビーン、シャイニーの力は何かエネルギー弾を飛ばすわけでもなく、針で刺したり血液を活性化させたりするという、表面に出ない能力だったので、特に言及はされなかった。
「いますぐ王の親衛隊に報告すべきなんじゃないか? あんな力を持っている人間を野放しにしてしまっては……」
コロッセオの本来の目的。それは、優勝した戦闘能力の高い人間を親衛隊にスカウトする事。だがもし、王の意思に背くような思想を持っている優勝者だった場合、専属の処刑人によって『処刑』される。
「前回の優勝者、クリスもあの様な力を使っていたような……。まあ、『処刑』されてしまったようだが」
彼らコロッセオの運営チームには、優勝者をスカウトしたり、『王』に歯向かうのなら処刑する。という程度の情報しか知らされていない。
「よし! いますぐ親衛隊に……ん? 誰だ貴様!」
通路から足音が。その人物は茶色のフードを深く被っており顔色は伺えず、少し小太り気味で初老の人物、というくらいしか分からなかった。
「……いつもコロッセオの運営をありがとう。だが、あの力を『観てしまった』のならば仕方ない。少し、眠っていてもらうぞ……!」
その人物の視線が、二人の顔に突き刺さる。次の瞬間、二人の体の力が抜け、彼らの目は真っ白となり生気が抜ける。
「殺さなくても良いのか? 『王』よ。観客は眠らせ記憶を失わせるだけで良いと思うが、こいつらもか?」
フードの人物の背後から三人の人影が現れた。
「失礼な言い方はやめろザーシス。……この者の無礼をお許しください、我が『王』」
真ん中に立っている男は身長がとても高く、通路の天井に引っかかりそうな程。彼の頭髪は全く無く、灰色の顎髭が風に揺れる。
「フン……元はと言えばお前の娘と、その仲間のオレンジ色がここで調子に乗ってしまったからだろう。あのピンクの大男もあっさりやられ、さらには力も奪われてしまったばかりだというのに。それにベージュ色の奴は姿すら見せない……詳しくは詮索しないつもりだが」
反論したその男の名はザーシスと言い、ユラユラと上に向かう紫色の髪をしている。菱形の模様が入ったグレーの上着の下はほぼ裸で、胸の辺りに黒い包帯が巻かれているだけ。豹柄のキルトスカートも相まって、常人では無い雰囲気を醸し出している。
彼の顔はかなりの美形だが、性格は沼地のようにドロドロだ。
「それよりも、さっきの壊れた所からレイの匂いがしてきたんですよ、我が『王』……ああっレイ!!!! どこにいるの!? お母さんの所に来てえええ!!!!!!」
もう一人はレイダで、目の焦点が合わさらずグラグラと目玉が動く。息はどんどん荒くなり、水色の頭髪の艶が増す。そして彼女の周りが凍り始めた時だった。
「ああレイっ! …………あ」
急にレイダの動きが止まった。フードの人物がレイダの顔を見つめた瞬間に。
「……子供を欲する気持ちは我にも十分、
「……あっ、あがっ。ご、ごめなさ……ごめんなさいっ! お許しっ、お許しをッッ……」
するとレイダは自分で自分の首を両手で締め始めた。呼吸ができなくなり、涙を流しながらフードの人物に許しを請う。それを見た彼はレイダから視線を外し、ザーシスへと向けた。
「ハッ、ああっ……コヒュー、ヒュー……! おげぇ」
やっと息を吹き返したレイダだったが、同時に嘔吐してしまう。
「……吐いたモノは、自分で食え」
「そ、そんなっ……!」
涙目で彼を見つめてしまったレイダ。彼女の口はすぐに嘔吐物へと近づき、自分の『意思』に反してそれを食し始めた。
「……すまないねザーシス。こんな光景を見せてしまって」
「いや……嫌いじゃあないさ。まさに勝者の成しうる行動……。私も、あなたのような頂点を目指そう!」
満更でもない笑顔を浮かべたザーシスだったが、灰色の男は不満そうな顔を浮かべていた。
「さあ、レイダが食べ終わったら早くこの場から離れよう……。ドミネーションも数が減ってしまって、残り六人だ……。黄色の
「承知しました。我が『王』」
「支配の水色、レイダ!」
「はっはひっ……」
レイダは咀嚼しながら応えていたため、嘔吐物が口からこぼれる。
「そして……恐怖の紫色、ザーシス!」
「いいだろう、『王』よ」
髪をを風になびかせながら、ザーシスは不気味な笑顔を浮かべる。彼らは『王』に従い、『王』にとって邪魔となる者たちを抹殺するために組織された、『ドミネーション』
現時点でその構成員はザーシス、ステーシ、レイダ、フィシュナ、ファラン……そしてもう一人、『あの人物』だ。
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