【嫉妬】“家族”との隔たり
第4話 レイ度の氷 その1
氷の街、『アイス・ゾーン』には、ボルガの炎を抑えるほどのカプセルがあるという。本当かどうかはわからないが、それ以外の解決法が無いため、少しの希望にかけてみることにした。
「もうすぐで着きそうだな……」
「だんだん冷たくなってきてない? フェニックスは寒いの苦手なんだよね~」
*
「着いたぞ。……ボルガが近くにいるから、それほど寒くないな。ここには前も一回だけ来た事がある、その時と同じ宿に行くぞ」
アイス・ゾーンは観光地としても有名で、観光客向けのホテルも多数ある。あまりお金はかけたくない。外装が古そうで建物の規模も小さい宿へと足を運んだ。ドアを開けると、壊れそうなくらいボロボロになっているカウンターと、そこに立つ老婆の姿があった。
「……ん? まさか客が来るとはねぇ……ちょっと待っててくださいね」
そう言われると、十秒も経たないうちに部屋の鍵を渡された。
「今日の客はあんたらだけだよ。その鍵は全ての部屋の鍵を開ける事ができる。好きな部屋に泊まりな」
一番広い部屋にした。ベッドも多く、五つある。ヘルは二つのベッドを一人で贅沢に使っている。僕はそんなヘルを眺めながら眠りについた。
*
「おい起きろ! ……大変な事になってるぞ……」
ボルガに無理やり叩き起こされた。窓から街を覗く。すると、ゴブリン達の群れがぞろぞろと歩いていた。
「観光客がいないと思ったら、そういう事か……あの婆さん、なんでこの状況を説明してくれなかったんだよ」
どうやらアイスゾーンはつい最近からゴブリンの反逆軍から襲撃を受けているらしい。
「今は様子見だ。なんでゴブリン達がこの街を 襲っているのか、それを探るぞ」
アベルがそう言うと、ヘルはすぐさま部屋のドアに手をかけた。
「様子見なんてしてらんないよ! 人が死ぬかもしれない。全員フェニックスで燃やしてやる!」
そう言い放って外へ出てしまった。
「チッ……追うぞ。あいつらだけじゃあ簡単にやられちまう」
すぐさまドアを開け、ヘルを追う。だがヘルの姿は確認できなかった。
「どこに行ったんだ……? 今出ていったはずなのに……」
「ここは二手に分かれて行動するぞ。ボルガはヘルを探してくれ。俺とアランはゴブリン達の様子を見に行く。……アラン、俺の側から離れるなよ」
僕達二人はすぐにゴブリン達の後を追った。まとまって動いている。目的地へと向かっているようだ。あいつら……ここに何しに来たんだ……?
「人の気配だ! 近くにいるぞ!」
すると突然背後から現れたゴブリンの一人が叫んだ。案の定僕達の目の前までゴブリンが来てしまう。
「やっぱり人間が居たねぇ……!」
そう言って現れたのは、身の丈が僕と同じくらいの女性ゴブリンだった。昨日に遭遇したトンボのゴブリン、フライと同じような雰囲気がある。
「悪いけど、始末させてもらうわねぇ!」
するとゴブリンはカプセルを取り出した。
『ワスプ!』
ゴブリンは首にカプセルを刺すと、体が蜂のような姿に変化していく。羽、顎はもちろん、両腕には毒針が。
「気をつけろ……こいつ、グリーと同格、いやそれ以上かもしれない」
ラウザーを構える。すぐ近くにバケモノがいるせいか、怖くて手が震える。
「彼と同じにしないでくれる? 役立たずと一緒にされちゃあ困るわね。だって彼、一人も色を使ってる奴を殺してないんだもん」
ゴブリンの話を聞いた途端、アベルが一歩踏み出した。
「お前にグリーの事を語る資格は無い。あいつは、お前らの駒なんかじゃなかった」
「……ふーん。でもそんな事関係ない。今からあなた達は死ぬんだから」
*
「ヘル、いったいどこに行ったんだ……」
ゴブリン達に見つからないように隠れて移動しているが、ヘルは見つからない。
「……あそこは?」
ふと目に映ったのは不自然な扉だった。早歩きで近づき、地面に取り付けられた鉄製の扉に手をかける。もしかしたらトラップなのかもしれない。少しづつ開けようとしたが鍵は閉まっていた。
「仕方ない……無理やりこじ開けるか」
ドアに手のひらを当て、燃やしていく。脆くなったところで火を消し、扉の奥が見える事を確認すると、その中へと足を踏み入れた。
「階段か、暗いな……」
まだ日中だというのに暗く、そして肌寒い。俺じゃなかったら今頃凍死しているだろう。火を明かりにして先へと進む事にした。
「っ!? これは……」
ふと目に映ったのは氷だった。近くに寄るだけで寒くなってくる。それに、ぽつぽつと血の跡がある。随分前のものみたいだが、ここで何があったんだ?
「なんとか溶かせるか……?」
強力な火を放つ。すると氷は少しづつ溶けていき、気温が少し高くなるのを感じた。
「……この奥にヘルがいるのを祈るしかないな」
*
「君たち二人には、私だけで充分だよ。さあ、かかってきたらどう?」
蜂のゴブリンは他のゴブリンを先に行かせ、薄笑いをこちらに向けてきた。
「ずいぶんと余裕だな。そんなに自分の腕に自信があるのか?」
「もちろん。だって私の毒針に一回でも刺されたら、お前達は死ぬのよ?」
蜂のゴブリンの手の甲にある毒針が鋭く光った。あれの一撃をまともに受けてしまったら、きっと激痛だけでは済まないだろう。
「……アラン、お前は後ろから撃ち続けてろ。それと危なくなったらすぐ逃げるんだ。分かったな?」
アベルの言葉に言われるがまま、僕はアベルから離れた場所へと移った。アイアンメイデンを背負っているからか、大きく頼りになる背中だ。
「それじゃあ、私から動かせて貰うわよ」
蜂のゴブリンはアベルの頭上へと飛び、一気に急降下。右手をアベルの頭に振りかざす。一瞬の出来事で僕には対応できなかった。
「アベル!」
そう僕が叫ぶと同時に、アベルは向かってくる毒針に拳をぶつけた。毒針が壊れるのがしっかりと見える。
「な……毒針は刺さったはずなのに、何故死なない!?」
僕も同じ疑問が頭に浮かぶ。毒針はアベルの拳に命中していたはずだ。
「残念だったな」
そう言いながらアベルは手袋を素早く取った。
「俺の腕は特製の義手だ」
恐らく鉄製。陽の光に照らされ、まだ灰色のカプセルをラウザーにセットしていない事が原因かピンク色に反射している。
*
どんどん温度が低くなってきている。近くに氷のカプセルがある可能性が高いだろう。
「かなり近いぞ……この奥か?」
氷で閉ざされているドアを無理やり開ける。すると、予想外の光景が目に飛び込んできた。
「……氷の中に人が……!?」
厚い氷の中に女性、しかもまだ子供がいる事がわかる。水色の長い髪、そして白いワンピースを着ており、細く華奢な体型だ。その近くには人型の氷が固まっており、少し不気味だ。さらに、カプセルも氷の中にある。
「同じように燃やして……くっ、この氷、全然溶けないな……?」
炎を強く噴射するが、溶ける気配はない。しかも、この場に長時間も居たら凍えて死んでしまいそうだ。
「燃やす事はできない……なら、荒い方法だが!」
グリズリーカプセルを取り出す。グリーが使っていたこのカプセルは高い破壊力を持っているはずだ。中にいる彼女を傷つけないように加減しなければ。
「グリー、お前の力を借りるぞ」
ラウザーにカプセルをセットし、氷に向かって思い切り剣を振るう。
「氷に傷が! この調子ならいける……」
加減をしながら氷を砕いていく。
「グリー、お前のおかげだぞ…これで最後だ!」
ヒビを入らせると、氷は少しずつ砕け、溶けていった。女の子が倒れそうになったが、ギリギリで受け止める事ができた。
「おい、大丈夫か? 生きてるか?」
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