04.***約定***

『真桜……と言ったか?』


 言霊が持つ強烈な響きに、真桜が一瞬息を呑む。しかし慌てて頷いた。


『我と約定を交わせ』


「約定……」


 神との約定、重い言葉に繰り返すのが精一杯だった。


『待て、これは『人間』だぞ!?』


 華守流の仲裁に、アカリは嫣然と微笑んでばっさり切り捨てる。


『人間? 厳密には違うであろう』


「……っ」


 反論できずに唇を噛み締める華守流の肩を叩いた華炎が一礼して、アカリへ敬意を示す。しかし言葉はひどく辛辣だった。


『血筋はどうであれ、これは『人間』の範疇に入る。もう少し気を使ってもらえると有り難い』


 ふむ……考え込む様子を見せたアカリが首を傾げる。さらりと流れた黒髪を風が掬い上げ、複雑そうな顔をしている真桜の呟きも拾い上げた。


「さっきから……これ、これって…」


 華守流とアカリに続いて、華炎まで…。


 そんなニュアンスの憮然とした声に、華炎が苦笑いする。


『我の約定は大したものではない。この身が地上にある間、真桜と共に暮らしたい』


「一緒に?」


 そんな些細なものでいいのか? 疑問を込めた真桜の問い掛けに、アカリはおごそかに頷いた。


『代わりに…お前を護ってやろう』


 物理的な意味も、精神的な意味も含めての目守まもると告げる彼は魅惑的に微笑む。


 じっと見つめる行為は無粋で、神族であるアカリにとって不快な筈だった。だが、この者から感じる視線は心地よい。それが地上での生活を共に望む理由でもあった。


 どうせ高天原から逃げてきたのだから、地上では好きに過ごしたい。


 気に入った人間に加護を与え、代償に隣にあることを望むのは破格の待遇だった。アカリにとって不利とは言わないが、真桜の利点が大き過ぎる。


 眉を顰めていた華守流が『……信じられん』と小さく呟いた。


『返答はいかに?』


 神が人間に返答を求める。そこまで譲歩しているアカリに対して、華炎も華守流も反対は出来なかった。


 ちらりと視線を向けて「いいよな?」と問いかける真桜へ重々しく頷く。


「よろしくお願いします」


 にっこり笑顔で頭を下げた真桜の態度に、アカリは口元を押さえて笑い出した。

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