02.***悪噂***
「というわけだ」
北斗の説明に真桜は頭を抱えた。朝の出仕で突然門番に絡まれ、周囲の貴族は何やらひそひそ噂話に興じている。何かあったと考えるのは普通だが、その問題の中心が自分だと思わなかった。
要約すると、ある貴族の息子が供と歩いていたところ、気になる屋敷があった。どうせ年頃の美しい姫がいないかと覗いたのだろう。そこにすさまじい美人がいたのだが、残念ながらアカリは男の姿だった。だがその後ろで箒が勝手に掃除をし、式盤が浮いている。
只人でしかない貴族と供の童はさぞ驚いた筈だ。その勢いで叫んだら、なんと隠れていた紫陽花の木が風もないのに揺れて、自分達が見つかってしまった。
ここまでは事実どおりだ。問題はこの先、貴族の息子の考えにある。
――この屋敷は呪われた、邪教の支配する地。
周囲の貴族や知り合いに触れ回ったのだ。かなり混乱していたから気持ちは分からなくもないが、その騒ぎに便乗した連中がいた。元から陰陽師の存在をよく思わない一部の貴族達は、その噂話を上手に利用する。
最終的に『陰陽師は悪、その筆頭が
「なぜ、そうなる」
「お前がその貴族を放置したからじゃないか」
「だって自分の屋敷だぞ? 式神使おうが術を揮おうが、オレの領分だし勝手だろ」
陰陽師が自分の屋敷で
勝手に不法侵入した挙句、腰抜かして逃げる貴族にどうしろと? 何より、陰陽師から術や式紙を奪ったら何も残らないのだが……。
そもそも…幽霊が出た、妖が怖いとすぐ泣きつくくせに、陰陽師を蔑ろにする貴族が多すぎる。いっそ泣きつかれても無視していいなら、少しは陰陽師を敬ってくれるのか。ならば、連中に実害が出るまで放置してやるのも一手だ。
物騒な考えが真桜の脳裏を過ぎる。
「お前、怖い顔してるぞ」
「いや、いっそ役目を放棄してやったら、もう少し陰陽師の地位が上がるのではないかと思った」
「思うのは自由だ……」
北斗は呆れ顔で首を横に振った。声に出すなら、さほど思いつめていないと分かるからだ。本気で考えていたら、真桜は絶対に口にしない。いきなり行動に移して徹底的に敵を殲滅する部類なのだから。
「最上殿、主上から…」
「かしこまりました」
丁寧に使者に一礼し、肩を落とした。どうせ今回の騒動の裏話を聞きたいのだ。ついでにその貴族とやらを特定しておこうと考え、先触れの女房から3歩送れて後を追った。
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