20.***白贄***
きんし――それは複雑な意味を含んだ響きだった。『金紫』であれば瑠璃姫を示す。『金糸』と捉えれば、帝の血筋を繋げる糸である姫を指す。そして 『近親』と読み解けば、狙われる帝の近くに敵が潜むことを滲ませた。
言霊を恐れて声にしなかった『禁止』という響きは、この国の終了を意味する。
「覚悟は出来ているか?」
黒い
それらはこの国に固有の動物や鳥の姿を
「はい」
祭壇の前に白い衣の子供が座る。真白な肌に、老婆より白い髪を垂らし、赤い瞳は血のようだった。
「気をつける点はひとつ。決して
藤姫と黒葉がすでに同じ注意を口にしていた。何度目か忘れるほど言い聞かされた内容は、すべて異口同音だ。
同情しても泣いても構わないが、声や眼差しで応えてはならない。その存在を無視し、霊がどれほど
親や周囲に疎まれた赤子を、我が子同然に育てた乳母を助けるために、愛し子は育ての母に応えない。言葉や道理は理解しても、実際にその場面で彼が手を差し伸べて声をかけたら終わりなのだ。
危険は
北を黒葉、対となる南に藤姫、東を華炎、華守流が西。それぞれに札を手に位置を取った。今回の祭壇の正面は南だ。北を背にした祭壇の前へ藍人がゆっくり横たわった。
「真桜、我が神力も使うが良い」
人形を脱ぎ捨てて神としての姿で微笑むアカリが、ふわりと後ろに座る。南は
「助かる」
小さなネズミや鳥が真桜の身体に舞い降りる。肩に留まり、座った膝の上に飛び乗った。国津神の化身である彼らも協力してくれるのだろう。この国を黒く染める
「
「わかった」
軒先に封じた空間へ残された子供が頷く。九尾の狐の子であっても、まだひとつ尾だ。彼の霊力は当てにできず、逆に敵に取り込まれたら厄介だった。これ以上藍人の負担を増やせば、心が持ち堪えられない。
「始める」
危険を承知で子供達を使わねばならぬ。これが陰陽師としての道を選んだ覚悟であると理解しても、やはり自分の力不足が辛かった。人の身を捨てれば選べる手札が増える。しかし鎮守社の護り手が見つからぬ今、
「ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……」
数えて十で息を一度止めた。唇を尖らせてすべての息を吐き切る。くらりと目眩が襲うほどの時間をかけて吐き、再び同じ長い時間をかけて空気を吸い込んだ。
《ひふみよいつむななやこののたり》
区切らずに九字を言霊に吹き替えた。空の雲が晴れて月が光を降らせる。用意していた札を空に舞い上げて、落ちる前に霊力を含ませて固定した。
《我が名を
空中に静止した札が一斉に地に落ちた。そこに記されていた墨文字が消えている。風がない庭で、真桜の赤茶色の髪が舞い上がった。指先が文字を描くたび、文字がぽたりと地面に染みる。それらが札に書かれていた墨文字と混じり、大地を黒く彩った。
《白き贄に連なる者よ。来たれ》
現れた女性は透けており、
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