23.***禍星***
縁側に座り、夜空を見上げる。無意識に星の配列を確認してしまうのは、もう職業病かも知れない。苦笑いした
「ん? これ……」
「献上品らしい」
濁らない酒は滅多に出回らず、儀式に使う程度の高級品だ。庶民はおろか公家の口にも入らない。この酒も濁っているが、質は悪くなかった。神に捧げてもおかしくない。
「お姫様の?」
「いや、鬼だ」
「あの子達に修業をしても平気だと思うか?」
「言ったであろう、我は黒がよいと」
都の鎮守神は己を犠牲にする人柱であり、どこまでも穏やかな気質が求められる。その意味でなら、両方とも失格だった。感情を露わにしすぎる糺尾も、脆く弱い藍人も、どちらも都を道連れに滅びかねない。人の世は人の手に委ねるのが摂理であっても、亡びる未来を放置するほど冷めていなかった。
飲み干された盃を満たして返したアカリに微笑み、映した月ごと飲み干す。
「っ……そんな馬鹿な!?」
干した盃の濡れた表面に映った星の配置に、息を飲む。盃を投げ捨てて立ち上がった真桜の足元で、ぱりんと不吉な音を響かせて割れた。見上げる空は久しぶりに雲のない星空が広がり、星読みを得意とする真桜の目に吉凶を伝える。
僅か数日の曇り空に隠された変化の予兆に、隣のアカリが口元を緩めた。
「なるほど……あちらが先手を打つか」
真桜の読み解いた凶事を示す兆しに目を細め、神は残酷なまでに美しく微笑む。瓶子に言霊を含めた息を吹きかけ、縁側のへりにぶつけて割った。散る酒に言霊がよみがえる。
「真桜、動いた星に追わせるとよい」
言葉遊びのようなアカリの提案に、真桜は一瞬
「それしかない、か」
後手に回った今回の騒動は、想定を超えて高くつきそうだ。被害の少ない方法を模索する間に、状況は悪化の一途を辿っていた。もう猶予はないだろう。
「
式神の
《ひ、ふ、み、よいつむ、ななや、ここのたり》
言葉の切る位置を変えて、意味を
《我が、闇の主神たる王の名に連なる者として命ずる――禍い為すものを切り裂かん》
風が強く吹いた。響いた悲鳴を隠すように……。
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