18.***悪友***
正座して、目の前の2人に引き攣った笑顔で応じる。
「……だから、アレは人の悪意が固まって出来る『人魂』もどきであって……厳密には人格とかないから、比較的吸収しやすいんだよ」
これ以上の説明をしろと言われても、真桜だって詳細を知っているわけじゃない。困りながら首を傾げれば、にこにこと山吹が口を開いた。
「悪意を飲み込んで平然としている真桜を、ちょっと開いてみたいですね」
「それはいい」
簡単に同意したアカリの声に、真桜の笑顔は崩壊した。
「ちょ、開くって……」
『真桜さま……ばらばらにされそうですね』
心配しているというより、雰囲気を楽しんでいる黒葉の追撃にがくりと項垂れた。
冷えた室内へ侵入した悪霊を指先で弾く。消えた霊がしゃらりと甲高い音を立てた。
通常『陰陽師』とは読んで字の如し。陰と陽を同様に持ち合わせて操る存在を指す。
一番適しているのが、闇の器と光の魂を抱く人間だろう。しかし真桜は闇の神族の血を引く為、つねに闇に偏りがちだった。それを補っているのが、光の神族に近い式神なのだ。
真桜単独ならば、いつ闇に染まってもおかしくない。
「冗談はさておき、今回の首謀者はまた……彼ですか?」
山吹が声を顰める。自然と輪を小さくして、顔を突き合わせるようにした面々に、真桜は諦めたような仕草で溜め息を吐いた。
「ああ……」
「懲りないですね」
事情がわかった様子で進む話に、アカリは素直に疑問を挟んだ。
「……彼とは?」
一瞬顔を見合わせた彼らの視線を一斉に受け止め、軽く小首を傾げる。
天照の眷属であるアカリは地上に降りたばかり、何もかも見通す能力はあっても……まだ使いこなすには時間が足りなかった。
「悪い、説明忘れてた。『彼』ってのは……まぁ、オレの幼馴染なんだけどな。
「真桜を連れ戻したいのでしょうが、よく悪戯を仕掛けてきます」
山吹の締めくくった大雑把な説明に、アカリは眉を顰めた。
「……幼馴染、友人なのか?」
過去形ではなく?
そんなニュアンスに、真桜が肩を竦めた。背の髪が揺れる。
「親友なんだ。今もね」
『悪友だろう』
茶化した華守流の物言いに、全員が苦笑いを浮かべた。真桜も否定せずに笑うだけ。
穏やかな空気の中、「くしゅん」とくしゃみが響いた。
「やべっ! 風邪引くぞ」
慌てて真桜がアカリの肩に上着をかける。神様とはいえ、アカリの器は現在人間と同じ…風邪を引いたら大変だ。ましてや風邪の経験などないだろう身体に、万病の元は辛すぎるだろう。
「じゃ、今日は帰るわ。出仕は明後日ってことで……」
物忌みとか何とか理由をつけて休む気満々の真桜に、今上帝はにっこりと釘を刺した。
「帰る前に、ちゃんと封印を戻してくださいね」
解除してしまった部屋の守護―――確かに依代の山吹が住まう場所としては危険すぎる。
引き攣った笑顔で「も…もちろんじゃないか。忘れるわけないだろ」と請け負った真桜は、裏で式神達に『…完全に忘れていたな』と囁かれ、派手に数回くしゃみをした。
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