25.***咎持***
真桜のような神族の血族は長い髪を持つ者が多い。それは大きすぎる
長い髪には意味があった。逆に短髪の神族、アカリのような存在は珍しいのだ。鬼である天若は髪を伸ばさないが、そもそも並みの陰陽師程度の霊力しか持たないため不自由しなかった。
世の冷たさを恨みつらみに変換して呪詛を放った彼女へ、同情する余地はない。少なくとも、人は他者を呪う権利など有していないのだから。
どんなに他者を羨んでも、妬んでもいい。だが呪詛を飛ばすのは話が別だった。感情は己の中で処理すべきもの、処理できなかった
「どうしたもんかねぇ」
咎持ちは闇の神族の管轄だ。そのため数が増えると管理が大変なのだとぼやいて、赤茶の前髪をぐしゃりとかき乱した。
「また助けてやる気か?」
程ほどにしろと苦言を呈するアカリは、数日前に摂政家の女房を助けた事例を忌々しく思っているらしい。さすがに真桜だとて、そこまで慈愛の精神が旺盛なわけではなく。
「いや、殺すと面倒だから生きて償ってもらう方向性で」
胸元から引っ張り出した札に印を切って息を吹きかける。白い鳥の姿で舞い上がる札を追いかけながら、アカリの右手を掴んだ。
「手伝ってくれ」
「わかった」
「あ、華炎は華守流をつれて追いかけてくれ」
『ああ』
式神に指示をだし、真桜は暗い夜道を走り出した。
ふわり舞い降りた白い鳥に手を触れると、紙となった鳥は赤く染まった。恐怖を感じるより先に、ああ…これで救われると表情を和らげる。
もう立ち上がることすら出来ない。やせ細った身体は自らを支えられず、
美しかった黒髪は艶がなくなり、季節変わりの猫のごとく抜け落ちた。枯れ木のような指、胸は骨が浮き、肌は乾いた魚の臭いがする。この有様ではあの人に会うことが出来ない。
嫌われてしまうだろう。
それでも一目見ておきたいと願う自分が、愚かにも窓の外へ視線を向けさせる。必死に伸ばした指に触れた白い紙は赤く色を変えても、消えずに漂っていた。生き物のような動きを続ける紙は付かず離れず、指先に触れたまま。
「……会い、たぃ」
しわがれた声に続いて、頬を涙が伝った。
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