31.***閂封***
「呪詛の根は消した。
狩衣の裾を払った真桜が両手で印を結ぶ。口の中で言霊を生みながら、声にせず霊力を高めた。足りない部分を補うため、真桜の両手に神気を添わせていく。絡み合う霊力と神気が黒く染まった。
≪我が血をもって、閂と成せ。
右手の人差し指と中指を添え、刀として左手のひらを切る。指が形作った刀は、鋭い刃で作ったような傷を生んだ。数えながら九字を手のひらに刻む姿に、あり得ない痛みを感じる。黒葉には存在しない、痛みの概念が伝わった。
真っ赤に染まった左手を門へ翳す。開きかけた隙間を押し戻すように、門の中央に押し当てた。
「真桜」
駆けつけた天若が祈るように頭を下げた。閂を作り出せるのは、闇の神族の直系のみ。それは人との混血であろうと関係なかった。そして直系が神王と息子のみの状況ならば、
≪門を閉じよ、我は開門を赦さず≫
押し当てた手から流れた血が門を濡らす。赤い手形を残し、門はゆっくり閉まりはじめた。完全に閉まりきった門へ、真桜が閂をかければ黄泉の横穴は封じられる。
右手の指刀の先へ長く細い息を吹きかけた。その指に宿る神力で左から右へ一文字に線を引く。
≪
真桜に絡みつく力は3つ。人としての霊力、闇の神族の神力、眷属である黒葉の神気……交じり合う力が渦を巻いた。
≪
練り上げた力で門を完全に閉じる。封印の文字を刻み、閂と成す。額に滲んだ汗が垂れて目に沁みた。拭う所作もなく紡いだ言霊が、閂となった封印を補強する。
絡み合う力による封印を確認し、やっと大きく肩を落とした。全身が怠く重いが、身体を脱ぎ捨てるわけにもいかない。額の汗を無造作に拭い、真桜が深呼吸で霊力を整える。強引に引き出した霊力と神力が狂い、体内を荒らしていた。
「真桜……」
振り返った真桜の顔を両手で固定し、アカリは満面の笑みで接吻ける。目を見開いたままの接吻は短く、離れた後を追う様に真桜の指が己の唇に触れた。
「神力の補充だ」
確かに回復した神力が、霊力を制御する形で補う。彼の言葉は嘘ではないが、それだけではない。
「なら、もう少し補充してくれ」
そう笑って見せた真桜に、今度はアカリが言葉を失った。
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