02.***接近***

 絶世の……と表現するに相応しい美人が近付く。


 しかし


『止まれ』


 命じる声に美人が顔を顰めた。胡乱げな眼差しを向けた先で、矛を構えた長身の華炎かえいと、三日月形の青龍刀を構える式神、華守流かるらが陰陽師を庇うように立つ。


『……幽霊ではない?』


 半分透き通った月光の精霊のような姿に、華炎が正体を見極めようと緑の目を細めた。


『幽霊ごときと同列にされるとは…』


 舌打ちした美人が剣呑な眼差しを向け、右手で薙ぎ払った。


 風の刃は華炎と華守流をすり抜け、背後に守られる陰陽師の薄絹を切り裂く。


真桜しおう!』


 叫んだ華守流が飛び掛ろうとするのを、真桜の手が留めた。


「待ってくれ。これはオレが悪い」


 被っていた布が消えたことで、陰陽師――真桜――の容貌が月光に晒される。鬼の子と呼ばれる赤みかかった茶の髪、この国では見られぬ青紫の瞳、異国の血を引く彼の顔は端整だ。


「顔を隠して接するのは無礼だよな、ゴメン」


 詫びた真桜が頭を下げ、華守流と華炎は顔を見合わせて溜め息を吐いた。


 美人が傲慢な態度で頷く。真桜の謝罪は的を射ていたらしい。


「オレは真桜。この国では別の名もあるけど……」


 あっさり本名を晒した真桜に呆れて、華守流が頭を抱えてしゃがみ込んだ。どこの陰陽師が得体の知れないモノへ、本名を名乗る?


「……知識不足で悪いんだけど、どちらのカミサマ??」


 真桜の指摘に、ほぉ……と感心したような眼差しが注がれる。艶やかな黒髪を短く整えた彼が、蒼い瞳を愉快そうに歪めた。


何故なにゆえ、神だと思った?』


「勘、かな」


『鋭い勘に敬意を表し応えてやろう。我は『オオヒルメノムチ』の眷属だ』


 オオヒルメノムチ――アマテラス、すなわち最高位の女神の眷属となれば神格は高い。


 驚いて目を瞠る真桜に近付き、途中で華守流と華炎を一睨みして遠ざけた。


「あの……」


 何か無礼を咎められるのかと青ざめた真桜の顎に手を触れ、ふわりと宙に浮いたまま神の眷属は微笑んだ。


『我が名はアカリ…お前には喚ぶ事を許そう』


「あ……ありがとうございます」


 とりあえず礼を言ったものの、近すぎる美貌に真桜の頬が赤く染まる。その反応が気に入ったのか、アカリと名乗った神は微笑んで接吻けた。

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