33.***悪癖***

「なるほど、それで藤之宮様がご一緒なのですか」


「まあ……お久しぶりにございます。藤之宮さま」


 今上帝と妻の青葛の君へ拝謁した真桜は、疲れ果てた顔でなんとか座っている。普段の姿勢のよさはどこへやら、酔っ払いのようにふらふらしていた。


「それで、なぜ真桜は具合が悪そうなのですか?」


 山吹の問いに、隣に座る半透明のお姫様は淡く微笑んで応えた。


『アカリ様と式神の2人にこってり絞られましたの』


「ああ、人たらしですからね」


 今回は人外ですが、同じようなものでしょう。達観した様子で納得する友人へ、じとっとした眼差しを向ける。真桜の目の下に浮かんだ隈を見るに、寝かせてもらえなかったらしい。式神の華炎は自分達が蔑ろにされたと怒るだろうし、華守流は懇々と現状を言い聞かせた筈だ。


 光の神族であるアカリに至っては、嫉妬交じりの嫌味を投げつけながら、それはそれは美しい微笑を向けたと思われた。何をされるかわからない恐怖と、ねちねちした嫌味に睡眠時間を削られた真桜が気の毒ではあるが……庇って飛び火するのは御免だった。


 第一、ここまで式神や神族、闇の眷属を惹きつけておいて、自覚がない真桜も悪いのだ。非常識な霊力と神力を持つくせに、あちこちから嫉妬や羨望を向けられても気付かなかった。挙句、この国を救った自覚も薄い。誇れる成果を隠すから、さらに周りに睨まれる。


 悪循環の塊だが、その貧乏籤びんぼうくじ引きまくりの不器用さが、真桜らしくもあった。完璧そうなのに最終的に収支が減じてしまうあたり、生まれよりお人よしの性格が原因だと思われた。


「……真桜、起きてますか?」


「ん……起きてるぞ」


 言葉の端も揺れている。どうやら半分ほど眠っているらしく、完全に目は閉じていた。かろうじて反応はしたが、これは今日一日使い物にならないだろう。


「寝かせておきましょうか」


「そうだね、瑠璃は本当に優しいな」


 普段はつれなく振舞うくせに、最終的に優しい青葛の姫に微笑んだ山吹は扇を鳴らした。音に呼ばれた女房へ、真桜を休ませるように伝える。


「明後日まで物忌みで休ませるように」


 命じた声に誘われたのか、アカリがふわりと現れる。只人ただびとである女房には見えない霊体を真桜の上に重ね、闇の神族である真桜の身体に憑いた神は優雅に一礼した。


「御前失礼いたします」


 声は真桜なのだが、言葉を発したのはアカリだ。宮中でも敵う者がないほど優雅な仕草で去る真桜の後ろを、静々と藤之宮がついていく。見送った山吹と瑠璃が顔を見合わせ、同時に吹き出した。扇で口元を隠して笑い続け、目の端に涙を滲ませながら呟く。


「真桜の格好で、あれは……嫌がらせだね」


「女難が続きますわね、もう悪癖としか言えませんわ」

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