第2章 陰陽師、狂女に翻弄される
01.***騒動***
冷たい風が吹く。
闇が支配する辻で、何かが蠢いた。人ではなくヒトであった
通りかかった
「ば、化け物じゃ!!」
「ひいぃ……っ」
悲鳴を糧に人影は笑みを深めた。牛車の中で気を失った若者の上に手をかざし、しばらくすると姿を消す。腰が抜けた侍従が這うようにして中を確かめると、主が倒れ伏していた。
「わ……若君?」
恐る恐る近づいた侍従の目に飛び込んだのは、冠から覗く白髪――まだ若い公達は、皺だらけの老人に変わっている。さきほどまで若木のようだった青年が一瞬で枯れてしまった。
「ひっ……」
慌てた彼らに出来ることは、生気を吸い取られた主を屋敷に運び入れることだった。
* ―― * ―― *
欠伸をしながら道を歩く。
大路は人の往来が激しく、それ故に赤茶の髪が目立たぬよう薄絹を被っていた。通常は身分の高い女性が羽織るものだが、陰陽師の中には同様に素顔や姿を隠す者も少なくない。
外から見えにくいのを逆手に取り、もうひとつ大きな欠伸をした。
「
隣の美人が小首を傾げる。並外れた美貌を平然と晒すアカリは、少年のような無邪気な表情で覗き込んできた。本来は蒼い瞳だが、
黒髪黒瞳が普通のこの国では、違う色を纏うだけで「鬼よ、化け物よ」と石を持って追い立てられるのが常だった。自衛のために色を変えてくれるよう頼まれたアカリも、それは承知している。
艶のある黒髪は短く整えられ、少しだけ後ろで結んでいた。最近伸ばし始めたばかりで、やっと結べる長さに届いたところだ。
「う……まあ、眠いな」
否定しようがなく、腰まで長い三つ編みを弄りながら3つ目の欠伸をかみ殺した。
陰陽寮は長髪が多い。長い『髪』は『神』に通じる――そんな考え方から霊力が宿る髪を伸ばす。人間に関してはほぼ迷信に近く効力は薄いが、神族は男女に関係なく長髪が普通だった。
事実、長い髪には神力が宿る。神々や眷属はこぞって長い髪を有していた。
真桜は闇の神々に繋がる血筋のため、母親から受け継いだ人間の霊力も髪に影響される。ただでさえ目立つ赤茶の髪を承知の上で切らないのは、霊力や神力を損なわないという理由があった。
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