04.***呼出***

 ふぅ……大きな溜め息をついた北斗が肩を竦めた。


「よほど怒らせたんだな」


 誰を、誰が、どういうふうに。すべてを省いた言葉で、彼は真桜の心境を口にする。肯定も否定もせず笑うだけの真桜だが、意地悪さを滲ませた表情は前者を意味していた。


「自業自得、因果応報ってか」


 北斗は呟くと、先に行くと手を振って走り去った。あわただしい彼の姿が見えなくなる頃、アカリはぽつりと呟く。


「……そこまで高尚な話でもあるまいに」


「人間なんて、その程度だよ」


 苦笑いした真桜がアカリの黒髪をくしゃりと撫でた。






 御簾の前で頭を下げながら、真桜は告げ口した男を心の中で罵った。


「それで、真桜。その先は?」


 無邪気に続きをせがむのは、今上帝きんじょうていの妻となった金髪の女性だ。その隣で同じ金の髪をもつ青年が笑っていた。


 仲睦まじいのはよいこと――つい数ヶ月前に嫉妬から都を滅ぼしかけた女性には見えない。呪詛を撒き散らし、龍神を縛り付けたのが嘘のようだった。


「……婿殿が故意に落とした新たな文を、ご父君に届けましたよ」


 忙しい時間の中、御上に呼び出された真桜は今朝の説明を再度繰り返す破目に陥っていた。それもこれも、すべて口が軽い北斗の所為である。


 気安い関係なので口調は崩しているが、誰に見られるか分からない。姿勢だけはしっかり今上帝への敬意を表しておいた。


「ところで、奥方は元気なの?」


「奥方……?」


 誰を指しているのかわからず、眉を顰めた真桜が少し顔を上げる。扇で顔を隠してくすくす笑う彼らの仕草に、示された存在に思い至った。


「元気、つうか妻じゃないからな」


ならば男女の違いはないと聞いたけれど」


 言霊を避ける瑠璃の姫が告げた相手は、今頃『護り札』と『式紙』を作っているだろう。思い浮かべたのは美しいかんばせと緑の艶を帯びた黒髪、鮮やかな蒼い瞳の美人だ。


 男女の違いはない……その表現は半分当たりで半分外れだった。自身も神族の血を引くからわかるが、男女どちらでも選べるだけだ。大抵は選んだ性別を後から変更することはないが、どこにでも例外はいる。


 ただし、アカリは今も男性体だった。


「誰に聞いたの?」


 呆れ顔で身を起こせば、長い赤茶の髪が滑り落ちた。三つ編みした長い髪を背に放りながら首を傾げる友人へ、帝である山吹が当たり前のように答える。


「天照様だけど」


「……あっそ」

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