05.***濃影***

 口調がぞんざいになる。


 高天原たかあまはらの最高神であり、太陽を司る女神である天照大御神あまてらすおおみかみの眷属だったアカリが地上に降りたことで、彼女も暇を見つけては顔を見せるようになっていた。


 彼女ほど上位の神が地上に降りるなど稀で、おかげでこの国は豊穣と繁栄が約束されたも同然だ。拒む理由はないのだが……彼女があまりに頻繁に顔を見せるため、多少の問題も起きていた。


 ――光が強くなれば、影も濃くなる。


 天にあって光を放つ存在が地上に降りれば、当然影の位置がずれる。天と地底が乱れたため、最近はあまり光臨していなかった……筈なのに、どうして瑠璃の姫と話をしているのか。


「え、また降りちゃった?」


「いいえ、あの御方は思慮深いのよ。あなたとは違うわ」


 闇の神族、それも王族に連なる真桜への嫌味が滲む。一瞬目を見開くが、すぐに真桜は口元に笑みを浮かべた。ちゃんと本人へ嫌味を口に出来るくらい、今の彼女は幸せなのだ。満たされているからこそ、嫌味も正直に口に出来た。


 よい傾向だと判断した真桜へ、黙って見ていた山吹が声をかける。


「アカリ殿もだいぶ馴染んだし、陰陽寮も華やかになっただろう」


 華やかと表現するのとはちょっと違う。どこぞの姫君方からアカリ宛に届く文の山、最近は真桜にも届くのでアカリの悋気――と言うと怒られるので焼きもち――が激しくて大変だった。


「うーん、華やかっつうか……」


「騒がしくなった、が正しい?」


「そっちのが近い」


 頷いた真桜は、首筋に感じた冷たい指先に気付いて振り返った。


 主上がおられる御簾の前――当然厳重な警備の奥だ。そこにふらりと現れたアカリが唇を尖らせて背中から抱きつく。


「アカリ? 何かあったのか?」


 咎めるより先に心配して顔を覗き込めば、蒼い瞳が瞬いた。ふわりと笑みを浮かべる護り人に見惚れる真桜へ、瑠璃の姫が呟く。


「溺愛、ですわね」


「こういうのは言わないであげるのが、優しさだよ」


 今上帝とその奥方の会話に頬が赤くなる。


「ところで、アカリ殿は透けているけれど?」


 山吹の問いかけに、真桜も視線を彼の足元へ向けた。人外であり神族でもあるアカリの足元は……当然ながら透けている。正確には全身が透けているのだが、幽霊より密度は濃い。


「どうしたの?」


 やっぱり問題が起きたのか。


 眉を顰めた真桜へ、機嫌が良くなったアカリが微笑みかけた。


「お前が帰ってこないので霊体を飛ばした」


 その爆弾発言に、人間3人は揃って絶句するしかなかった。

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