21.***封刃***

 現れた魂を一刀両断に切り裂く。細い糸のような悲鳴が尾を引き、救いのない闇に飲まれた。


「迷う時間はない」


 真桜の一言に応じる黒刃が、刀の形を変える。正確には刃が一回り大きな闇に覆われたのだ。太刀より大きくなった刃を軽々と扱う。


 事実、真桜に重さは感じられない。己の手の延長と呼べるほど、軽々と振り回した。隣で華炎が鮮やかな炎で魂を消し去り、アカリは無造作に触れては光に取り込んでいく。それぞれの方法で、大量の魂達は狩り尽くされていった。


『いいか』


「そうだな、任せろ」


 天若との主のやり取りに、華炎が真桜の右側に立つ。炎による結界を作り出す式神により護られながら、真桜はくつを脱ぎ捨て、素足で立つ地面に黒刃を突き立てた。


 地の一族たる真桜も黒葉も、大地に接している方が大きな力を扱いやすい。


 九字の印を結び、目を伏せた。


≪ふるえゆらゆら、ゆらゆらとふるへ……≫


 呟く言霊に揺り起こされた霊力が真桜の周囲に風を起こす。長い髪の先を結わえた紐が千切れ、赤茶の髪が舞い上がった。


≪我が意に染まりて、広がり、ひろがれ。は九字のを借り、り、意をるもの――闇王の名において、封殺ふうさつせよ。我以外の何者もけず、けぬ檻をせ≫


 黒刃が塵となって鬼門を覆っていく。鬼門に形を成す門や穴はない。空間の裂け目のような隙間が鬼門となるのが常だった。このたびの騒動で開いた隙間を、黒い霧がぴたりと塞いでいた。


「これで少しの間はつから、警戒だけ頼む」


『助かった』


 迎え撃つことは出来ても、開いてしまう鬼門を封じる術は鬼に伝わっていない。塞いでも次の裂け目が出来れば、追いかけっことなる千日手せんにちてなのだ。


 安心した天若の肩をたたき、鬼門を封じる黒刃に声をかけた。


「悪いけど、頼むわ。


 応えはないが、ゆらりと黒い闇が揺れた。ひらひら手を振った真桜に、隣の華炎が薄絹を渡す。長い髪をそのままに出歩くのは悪目立ちするだろう。長く共にある式神の気遣いを素直に受け取った。


『真桜、行くのか?』


 アカリを含め、神族は常に曖昧にとれる言い回しを好む。言霊による断定をさけ、出来るだけ解釈の余地を残すのだ。行く先を口にしないのは、神族特有の習慣だった。


「ああ、手伝ってくれるだろ」


 疑問ですらなく、当然だとばかりに手を差し出す。嬉しそうな笑みで手を取るアカリは、半透明の姿で主に寄り添った。

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