剣豪戦隊ブゲイジャー
雲江斬太
エピソード1「推参! 剣豪戦隊」
scene1 赤穂士郎
1
「おい、
呼び止められて士郎が振り返ると、よれよれの白衣の襟を立てた物理の田島教諭が、ズボンのポケットに両手をつっこんで靴箱の前に立っていた。片方の口元をにっと吊り上げた胡散くさい笑顔。本人はニヒルなつもりだろうが、安っぽい詐欺師にしか見えない。
二十代後半、独身。背が高く、体格もいいが、女子には不人気。ぼさぼさの頭髪とヒゲの剃り跡が青く残る顎。姿かたちはおっさんのくせに、妙に子供っぽいきらきらした目でいつもこっちを見つめてくる。
「なんすか」士郎は下校する生徒たちの流れにさからって田島先生の前までもどる。すでに靴は履きかえてしまったので、中に入る気はまったくない。
「おまえさ、なんにも部活やってなかったよな」田島先生にたずねられ、士郎はしぶしぶうなずく。
「ええ、やってないっすよ。おれ、こう見えて中学のころから帰宅部のエースですから」
「おお、そうか。じゃあよ──」
「やらないっすよ。こう見えて忙しいんすから」
「まだなんも言ってねえじゃんかよ。第一忙しいって、どうせゲーセン行ってゲームするだけだろ?」
図星である。なんでそんなこと知ってるんだ?
「いいじゃないですか。二十時までにはちゃんと店出てますから」
「じゃあよ、赤穂、おまえ、剣豪戦隊に入れよ。剣豪戦隊ブゲイジャー。焼肉おごるからさ」
「はあ? なんすかそれ。どこから焼肉がでてくるんですか」
「お、興味出てきたか」
「いえ、まったくもって無いです。焼肉も要りません」士郎はくるりと背中を向けると歩き出した。田島先生がなにか叫んでいるようだが、無視して駐輪場をめざす。とにかく今は『ゲンコツ・ファイター』の新しい空中コンボを完成させるのに忙しい。変な部活につきあっている時間はないのだ。
中学のころから乗っているママチャリを、駐輪場の端っこからひっぱりだし、油のすっかり切れたチェーンを軋ませながら校門の方へ走っていくと、人だかりがあって外に出られない。士郎は舌打ちして自転車を止めた。
「またあづち姫の大名行列かよ」
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