scene10 剣豪チェンジ!

 叫ぶと同時に身をひねって鉤爪をかわし、土蜘蛛と入れ違う。攻撃をかわされ、虚を突かれたように振り返る妖怪に、士郎はドヤ顔で啖呵を切る。

「この妖怪野郎。ゲーマーの反応速度を舐めるなよ」

 士郎の身体を赤い炎がぱっと包んだ。一瞬高熱に焙られたような錯覚に襲われたが、あっと思った次の瞬間、士郎の身体は赤い戦闘スーツに包まれていた。

 あとから聞いた話だが、この戦闘スーツは、ブゲイスーツといい、防刃防弾防炎の特殊繊維で被覆され、内部に強化人工筋肉と生命維持装置を備えており、装着した人間の能力を二十倍以上に高める強化戦闘服なのだそうだ。また頭部を守るブゲイメットは装着者の視力聴力を機械的に強化し、音声スイッチによるブゲイジャー装備の操作、チーム間のハンズフリー通信、装着者のバイオデータのモニターなどをこなすハイテクセンサーの塊である。

 ブゲイスーツが亜空間から転送されて、ブゲイジャーに装着されるタイムはわずか三マイクロ秒。

 ツバチェンジャーの音声スイッチに反応し、亜空間から転送されたブゲイスーツが士郎の身体を包み込み、彼の身体データを取り込み、ブースト値を設定する。ブゲイメットが頭部に装着され、非接触レンズ・デバイスが士郎の眼球に直接映像およびデータを送り始め、内耳共振スピーカーが外部音声と通信音声を伝送開始、同時に生体モニターが起動し、士郎のバイオデータを読み込みはじめる。

 さらに、両腕に籠手アーマー、両脚に脛当アーマーが装着され、腰の強化角帯にブゲイソードの大刀と脇差が装着される。ブゲイソードは一見普通の日本刀に見えるが、実は精神感応金属ヒヒイロカネを主材料とし、レプトン顕微鏡を用いて分子鍛錬された、妖怪斬撃に特化したハイテクノロジー・ソードである。

 すべての装備が装着完了したのち、士郎の顔面を覆う部分に自ら「面頬オン」し、さらに両目部分に「バイザーロック」で遮光プレイトを下ろすことによって視覚を塞ぎ、非接触レンズ・デバイスからの情報を受けやすくして、完全にチェンジ完了である。

 炎の中から姿を現した赤い戦闘スーツの姿を見て、土蜘蛛が一瞬怯んだようにあとずさる。

「おお」士郎はバイザー越しに自分の両手をまじまじと眺め、息を呑む。「これがブゲイジャーか」

 拳を握り、左右のパンチを繰り出してみた。金属で覆われた手甲グラブが空気を切り裂いてぴいんという音を立てる。腰を落とし、軽く跳躍するだけで、重い装備をまとったはずの身体が、羽毛のように軽がると舞い上がり、人の背よりも高い位置へ士郎の身体を運び上げた。

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