scene11 レッド

「すげえ、まるでスーパーヒーローにでもなった気分だ」

「気分だけじゃないぞ」田島先生、いやブゲイジャー支配但馬守が印籠フォンを介した通信回線で伝えてくる。「いまのおまえは非公認とはいえ、剣豪戦隊の一員。間違いなく、ブゲイジャーというスーパーヒーローだ」

「こいつはすごいぜ」目の前にいる土蜘蛛に視線を合わせると、敵に関するデータが視野の中に投影される。

「士郎。おまえは、ブゲイジャーのレッド。レッドムサシだ。腰の刀を抜け。対妖怪刀剣ブゲイソードだ。妖怪の持つ固有振動数に干渉する超高周波振動を発する日本刀だ。そいつで、土蜘蛛を成敗しろ」

「わかったぜ、先生。あ、いや、但馬守」士郎は親指でぐいっと鼻をこすったつもりだが、ブゲイメットの真ん中を手甲グラブの親指でこつんと叩いてしまい、苦笑する。照れ隠しに親指を突き出し、そのまま下に向けると叫んだ。

「成敗!」

 土蜘蛛に向けて走り出し、刀の柄に手を掛けると一気に抜刀……、しようとしたのだが、思ったより刀が長くて、刀身が鞘の途中でひっかかって止まってしまう。「あ、やべっ」と叫んで手元を確認しようと立ち止まる。その隙をついて土蜘蛛が四本の腕で殴りかかってくる。あれをくらっては、黒田の二の舞で気を失うことになる。瞬間的に抜刀を諦めようと判断した士郎は、刀の柄を戻して地面に転がる。飛びかかってきた土蜘蛛と再び入れ違い、地上で一回転して油断なく立ちあがった。そうしておいてから、余裕をもって大刀を抜く。

 刀の長さは約六十センチ。士郎は腰を引いて上体を前に倒しながら、ゆっくりと刀身を抜いてゆき、え?まだ抜けないの?と心の中で思いつつ、どうにかこうにか全部抜き切った。思ったより、遥かに長い。よくこんなもの、サムライは軽がると抜いているもんだ。

 とりあえず土蜘蛛に対して、抜いた大刀を中段に構えて威圧する。

 が、赤穂士郎。生まれてこのかた刀を抜いて斬り合った経験はない。剣道すらやったことがないのだ。おかげで、このあとどうすればいいのか皆目見当もつかない。

「ね、ちょっ、先生、先生。このあと、どうすればいい?」

「どうすればって、斬るんだよ、妖怪を」

「どうやって?」

「刀で、に決まってるだろ。おまえ、ゲーマーじゃないのか? 刀くらい、使いこなしてみろよ」

「この形状のコントローラーは使ったことがない」士郎は平静を装って、剣豪っぽく横にじりじりと動く。「おい、黒田。黒田っ! 起きろ、起きろってばっ!」

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