scene7 対策

「おう、待たせたな、おまえたち」サンダルをつっかけた田島先生が、胸に二本の木刀を抱えて駆けてきた。「塗壁にまったく歯が立たなかったんだって?」

「他人事みたいに言うなよ」士郎は口を尖らせた。「ブゲイジャーの現行装備で倒すのはちょっと不可能だぞ」

「わかってるって。みなまで言うな」と田島先生は、抱えていた木刀を一本ずつ士郎と黒田に配った。

「これは?」士郎は赤樫の木刀を受け取りながら首をかしげる。木刀は一見ふつうの木刀に見えたが、持ってみると異様に重く、柄のあたりにスイッチボタンが三つほど埋め込まれている。

「おまえら、戦隊というものがわかってないなぁ」田島先生は、バカにしたような笑いを口元に浮かべて士郎と黒田を見回す。

「あ、わかった」士郎は声をあげた。「これ、新兵器だろ。戦隊物では、強力な敵が現れたときは、さらに強力な新兵器で対抗するのだかお約束だからな」

「ちがうだろー」田島先生は、全力で異を唱える。「戦隊では、強力な敵が現れたら、そりゃ特訓でしょ。ということで、剣技特訓用ブゲイボクトウだ。お手本モードと習熟モードがあるから、二人ともこいつを使用して剣豪奥義を習得してこい。こまかい使い方はこのメモに書いてあるから。いまなら荒川公園も人がいないだろうし、あそこなら街灯もあって明るいから、軽く二、三時間ひと汗かいてこい」

「えー、今からかよ」士郎はすっかり暗くなった夜空を見上げた。「おれ、そういう体育会系のノリは大嫌いなんだよぉ」

「ばっかやろー」田島先生は士郎の頭を軽くはたいた。「剣豪戦隊だぞ。文化系なわけないだろ。とっとと行って来い。妖怪退治は待ったなしだからな」

「あの、先生」黒田が木刀をついと持ち上げてたずねる。「桃山さんの分は?」

「あいつが、特訓なんかすると思うか?」呆れ果てたという口調で田島先生は頭を大きく揺する。「やるわけねーだろ」

「たしかに」黒田は変に物分りよく納得すると、くるりと背を向けて歩き出した。

「行くのかよ」士郎は黒田の背中を鋭く指さすが、相手はすたすたと荒川方向へ行ってしまう。「はいはい、おれもいきますよ。じゃ、先生。また明日。木刀はしばらく借りておきますよ」

「おう。それと赤穂。同好会の件、はやく決めてくれよ」

「無茶言わんでください。あの生徒会長、めちゃくちゃ堅物なんですから。先生の方からなんか言ってくださいよ」

「アホ、生徒会のことに教師が口出しできるか。おまえの方でなんとかしてくれ」

「まあ、やれるだけはやってみますけどね」

 士郎はなにか言い返したげな顔をしてにやにやしている田島先生を放り出し、先にいってしまった黒田のあとを追いかけた。

 どうも田島先生は、おれたちとこういった会話をするのが楽しくてしようがないようだ、と気づいたのは、かなり歩いてからだった。

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