scene6 敗北
腰だめに構えたライフル銃からフルオート連射で銃弾が光の奔流となって吐き出される。
宵闇せまる薄暗い公園を明るく照らす花火のように、銃弾の光輝が迸るが、塗壁の前進は止まらなかった。
若干慌てた感じで、ピンクガラシャがマガジンを換える。バナナ・マガジンから大型の五連装マガジンへ。
「ガラシャ・ガーランド、マグナム・モード」
ガラシャ・ガーランドをもちあげて、銃床を肩にあてた体勢で引き金を引く。ドーン!と大砲でも打つような砲声が響き、銃がガラシャの身体ごと跳ね上がる。明らかにパワーアップ弾の反動だ。
着弾と同時に、一瞬塗壁の身体が止まったが、すぐに何事もなかったように前進を再開した。
ガラシャ・ガーランドのマグナム・マガジンの装填数は五発だが、あと二発発射したところで、ピンクガラシャは諦め、銃を下ろすと進んでくる塗壁を横によけた。
「どういうことよ」不機嫌そうな声を出す。まるで士郎と黒田が悪いみたいな口調だ。「こっちの弾が全っ然効かないじゃない」
「おい、このまま逃がすのか」黒田が士郎とあづち姫の責任みたいな調子で詰め寄ってくる。
「何か手があるんなら、どうぞ」お手上げというジェスチャーであづち姫が肩をすくめる。「ほら、早くしないと消えちゃうわよ」
あづち姫の言う通り、もともと見えづらかった塗壁の姿が、公園出口あたりでさらにうっすらと消えかけてゆき、やがてまったく見えなくなった。
「但馬守、塗壁が消えた。そっちの反応はどうだ」士郎が尋ねると、ちょっと間があってから返事が来る。
「すまん、いまちょっと金子先生がそばにいて、パソコン画面をもどしていた。いったん『妖怪サーチャー』を止めちまったんで、まったく捕捉できていなかったよ。やっぱ部室がいるよなぁ」
「使えねえ大人だなぁ」
士郎は舌打ちしながら、腹立ちまぎれにブゲイソードを腰の鞘に勢いよく納めた。
ぱちんと鳴った鍔の音が、すっかり陽の暮れた公園に小さく響いた。
「とにかく!」あづち姫がイラついた声で言う。「ガラシャ・ガーランドの弾が効かないんじゃあ、話にならないわ。なにか対策を考えて、報告してちょうだい。あと、部室の問題も早々に決めてよ。妖怪サーチャーが機密条項だっていうのはわかるけど、人がそばに来たからっていちいち停止していたら、なんの役にも立たないわ」
大江戸高校の裏門までもどってきた三人は、とりあえず田島先生に連絡をいれてこの場所で待ち合わせしている。中に入ってもいいのだが、とっくに下校時間は過ぎているし、秘密活動をしている剣豪戦隊としては、あまり目立つ動きもできない。そのために、同好会という隠れ蓑、そして部室という秘密基地が必要なのだが、それは現状生徒会に却下されている始末である。
あづち姫は「ふん!」と腹立たしそうに鼻息を荒くすると、両腰に手をあてて士郎と黒田を睨みつけ、「じゃ、あたしは先に帰るから。但馬守には以上のこと、きちんと報告しておくのよ」と言い捨てて、すたすたと帰ってゆく。
見ると、暗い夜道の向こうにお迎えの高級車が停止している。あづち姫は、ドアを開けてくれた運転手に対してにこやかな笑顔を見せると、後部シートに優雅に収まった。
「なんでおれたちが説教受けなきゃならないんだ」士郎は口をとがらせる。
「しかし、桃山さんは、切り替えが速いな。車に乗る時はもう笑顔だった」黒田は変なところに関心している。
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