scene2 今度は……

「ぶっ」士郎は吹き出した。もし口の中にコーラがはいっていたら、部屋中泡だらけになっていたくらい激しく吹き出した。「ブゲイジャーなのかよっ! しかも、イエロージンスケって、……ジンスケって誰? つーか、え、ちょっとまって、水戸さん下の名前なんていったっけ?」

「水戸キナコと申します」今度はきっちりと礼する。

「キナ子? どういう字?」

「黄色い粉と書きます。黄粉もちの、黄粉。祖母が黄粉もちが好きだったそうで、そう名づけられました」

「黄粉って名前も凄いが」士郎は腕組みして考え込んだ。「黄という文字が入っているだけで、メンバーにするブゲイジャーという組織も凄いわ」

「なに言ってるのよ。キナ子ちゃんは居合やってるっていってるでしょ」

「にしても、よく黄色の黄の字が入った生徒見つけてきたよな」士郎は呆れるを通り越して感心してしまう。「さすがは生徒名簿を読み込んでいるだけあるよ、あの先生」

「よろしく」ふいに脇から黒田が手をだしてきた。「おれはB組の黒田武史。ブラックジュウベエだ。新陰流をつかう」

「よろしくお願いします。水戸黄粉と申します」キナ子は黒田の方に向き直ると、ちいさい両手で差し出された手をそっと握り返す。うつむいた顔がちょっと赤い。あまり男性に対する免疫はないらしい。安心しろ、そいつはたかが黒田だ。「林崎流の居合を遣います」

 林崎流居合? 聞いたことねえな、と士郎は思ったが、黒田は聞いた瞬間、えっという顔であわてて手を引っ込めた。あれ? 有名なのかな?

「まあいいや」士郎はちょっと照れ笑いしながら黒田にならって手を差し出す。「おなじクラスだから知ってるよな。赤穂士郎、レッドムサシ。ゲーマーだ」

「はっ、水戸黄粉です。よろしくお願いします。林崎流の居合です」ちょっと顔を赤らめながら、おずおずと士郎の手を指先でつつむ。細っそい指だ。「赤穂くんは、二天一流ですか?」

「は?」士郎は首を傾げた。なんの話だ?

 おい!とばかりにキナ子が後ろのあづち姫を振り返り、あづち姫が困ったような笑顔で言い訳した。

「あ、この人は、武術とかは全然やらないひとだから」なんかあづち姫が言い訳めいたことをいって、士郎のことを庇う。

「そうですか」とそっけなく答えてキナ子は手を引いた。「この人だけ、中心軸がなかったので、そうかな?とは思っていたのですが」

「え? なに? なんの話」

 士郎がきょろきょろすると、黒田が勝ち誇ったように胸を張る。

「だから、鍛錬が足りないということだ」部室の端にいって再び木刀を振りだした。「セイッ! セイッ!」

「ああーもう、うるせえな。武術オタクは」士郎が毒づく。

 水戸キナ子は二秒ほど木刀を振る黒田の背中を眺めていると、ふいにあづち姫に向き直って尋ねた。

「ブゲイジャーのメンバーは、この四人なんですか?」

「そうよ。やっと四人そろったわ」あづち姫は女子が増えて嬉しそうだ。

 しかしキナ子は眉間に皺を寄せて不服げに言い返す。

「でも普通、戦隊って五人じゃないですか? たしかに三人でスタートした戦隊もありますけど。円陣戦隊ゴーインジャーとか忍嵐戦隊ハリキリジャーとか。あるいは大洋戦隊サンヴァルカンみたいに最初から最後まで三人ってのもありますし。でも、四人って戦隊は一度シリーズ打ち切りみたいになっちゃったジョーカー雷撃隊だけですよ。まあたしかにジョーカー雷撃隊はトランプがモチーフでしたから、四人というのは仕方ないんですが、それでも、なんか四人って縁起悪くないですか? ここはひとつ、がんばってあと一人探しましょうよ。アカ、クロ、モモ、イエローのラインナップですから、やはりグリーンかブルーが必要だと思います。で、あたし思うんですが、やはりあたしたち高校生なんですから、同じ高校生の電波戦隊ギガレンジャーにならって、ブルーを探すということにしてはどうでしょうか? ブルーならきっと名前も、青はもちろん、海でも空でいいわけですから探し易いでしょうし……」

 キナ子のマシンガントークに、あづち姫が困ったような泣きたいような顔でうんうんとうなずきつつ、ちらりと士郎に目線で助けを求めてくる。

 士郎は小さく肩をすくめると、回れ右して歩きだし、黒田が振り回す木刀をよけて奥の壁際まで行く。なにも貼られていない真っ白な壁に、顔を十センチの距離までちかづけてつぶやいた。

「今度は、戦隊オタクかよ」


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