エピソード3「鮮烈! 黄色い閃光」
scene1 四人目のブゲイジャー
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「セイッ! セイッ! セイッ!」
「おい、黒田!」読んでいたゲーム雑誌をテーブルに叩きつけて、赤穂士郎は怒鳴った。「部室で、木刀の素振りをするのは、やめろっつってんだよ!」
「セイッ! セイッ! セイッ! ……ブゲイジャーが素振りをして何が悪い」ぎろりと横目で睨みつつも、黒田武史は振り上げていた木刀をおとなしく下ろした。
「部室でするのが悪い。外でやれよ」士郎はいらいらと天然パーマの頭を掻きむしる。
「赤穂よ。いいか、よく聞け。われわれブゲイジャーは、人に隠れて妖怪を討つのが使命だ。それを、これ見よがしに校庭だの体育館だの屋上だので、素振りをしてみろ。妖怪討伐の秘密任務が周知の事実となってしまうだろう」
「ならねえよ。第一、みんなおまえのこと、そんなに気にしてないって」
黒田はむっとして頬を膨らませた。こういうところは、案外子供っぽい。が、みんながこいつをそんなに気にしてないというのは、事実である。
先週のことだが、B組の生徒が実験のため化学室への移動中、階段で突然に黒田の両腿の筋肉が攣ってしまい、歩くに歩けず、踊り場で四十五分悶絶していたという事件が起こったらしい。クラスメートはもちろん先生すら、黒田がいないことに誰一人気づかず、そのまま授業が行われ、チャイムが鳴って教室にもどる途中ではじめて踊り場で悶絶していた黒田が発見されて小さい騒ぎになったという。通称「黒田空気説事件」である。
授業時間四十五分間不在でだれも気付かないというのも凄いが、四十五分間両腿が攣っていて動けないというのも凄い。B組のやつから、この話を聞かされた士郎は、こんなやつに日本の平和を任せて大丈夫なのかと、そっちの方が心配になった。
「だがな、赤穂」わずか数秒で立ち直った黒田は反撃に出る。この男、防御は穴だらけだが、そのぶん打たれ強い。「おまえは、稽古しなさすぎだ。武芸者たるもの、一に鍛錬、二に鍛錬だ。日々怠ることない鍛錬があってこそ、初めて得られる強さがある」
「へっ、なにが鍛錬だよ。武芸もゲームも、所詮はノリとセンスさ。磨くべきは筋力じゃないぜ。一瞬の判断を誤らない研ぎ澄まされた戦闘感覚さ。おれはこうして一見ゲーム雑誌ばっか読みふけっているように見えてだな、実は頭の中で絶えず戦闘のイメージトレーニングを欠かしてはいないのだよ、黒田くん」
「センスとイメージで指先は動いても、身体全部は反応できないんじゃないのか?」
「ふん、そんなことあるかないか、次の妖怪退治のときに実技で証明して見せるさ」
「セイッ!」黒田は士郎に背中を向けると再び木刀を振りだした。後ろで束ねた黒田の長髪が、馬の尻尾のように揺れている。
「だから、部室で素振りすんなっての!」士郎は一瞬あのサムライ気取りのちょん髷を思いっきり引っ張ってやろうとか妄想する。
もう一度怒鳴ったあたりで、部室のドアが勢いよく開いた。これくらい躊躇なくドアを開くのは、ぜったい度胸があるやつだなと思っていると、案の定、入ってきたのは桃山あづち。今日はいつになく機嫌が良さそうだった。
「みんな、新しいメンバーを紹介するわよ」大きな声で宣言する。
「新しいメンバー?」士郎は眉をしかめた。「それって、古武道研究会のメンバー?」
「そうよ」当然でしょという顔でうなずいて、あづち姫は廊下で待っている新メンバーを手で招く。「入って。みんないるから。ほら、早く。怖くないから」
あづち姫に促されて、背の低い女生徒がおずおずと戸口に姿を現す。黒縁眼鏡に衿までの黒髪、肩から学校指定のカバンをかけて両手で押さえている。地味で目立たない、校則に則った容姿。
「あれ?」士郎は首を傾げた。「水戸さん?」
同じA組の水戸さんである。
「ども」首をすくめるように挨拶する。
水戸さんはクラスでも目立たない女子で、仲の良い友達もいない。勉強は普通、運動はダメ、性格はおとなしく、顔はそばかすが浮いていて中の上。
「水戸さんはね、こう見えて、古武道経験者なのよ」あづち姫が自慢げに両手を広げる。
「ええー、そうなんだ」士郎は素直に驚いた。それで、古武研へ入るんだ。「で、水戸さん、古武道って、なにやってたの。もしかして弓とか?」
「居合を少々」滅多に聞けない水戸さんの声が聞けた。案外低く、張りがある。
「居合かぁ」居合とは抜刀術のことだ。格闘ゲームでは、刀を収めた状態から抜き放つ一刀は威力がでかいと相場が決まっているが、現実では斬り合いの最中に刀をわざわざ鞘に納めたりはするまい。とすると、居合って実戦ではどう使うんだろう? あれってふいに襲われたときの対処技じゃないのか? 「居合ねえ」ちょっと尻すぼみに首を傾げてしまう士郎。
あづち姫は水戸さんの背後に回り、外の廊下に人がいないのを確認すると、ぴっちりとドアを閉めて、再び宣言した。
「じゃあ、改めて紹介するわ。四人目のブゲイジャー、イエロージンスケよ」
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