scene4 戦隊物ではお約束

 交通量の極めて少ない二車線道路。歩道とのあいだには白いガードレールがあり、右も左も住宅街。生垣に囲まれた一軒家と三階建てのアパート。妖怪らしい妖怪の姿はない。あるいは昼間の妖怪は太陽光に透けて透明なのだろうか?

 士郎は印籠フォンを前かごから取り上げて、通話回線を開く。

「但馬守、妖怪の姿が見えない。詳細な位置を教えてくれ」

 すぐに回答が来た。

「おまえたちの前方三十メートル。近いぞ。注意しろ」

 士郎は印籠フォンを耳に当てたまま前方をにらむ。

 三十メートルさきというと、車道をゆっくり走ってくるあのゴミ収集車だろうか? もしくはそのあとからついてくる幼稚園の送迎バス。いやちょっとまて、歩道を歩いているあのおばあさんはどうだ? ひょこひょこ歩く姿が、妙に妖怪らしくないか? そして連れている犬。あるいはあのチワワが……。

「赤穂、注意しろ。接触するぞ」

「え!」唐突に警告されて、士郎は周囲を見回す。自転車にまたがったままの士郎とキナ子の脇を、ガードレールをはさんでゴミ収集車がゆっくりと通過して行く。

 あれか? 深い青に塗装された収集車の後部を見つめ、開きっぱなしの収集ドアの中を覗きこみ、そこに何かが潜んでいないか確認しようとするが、難しい。

 ついで通り過ぎる幼稚園の送迎バスも、窓から中を透かし見る限り、園児たちはおとなしくシートについているようであるし、ハンドルをにぎる運転手のシルエットにも異常は感じられない。

「士郎、通り過ぎた。後方二十メートル。なにか見えないか?」但馬守の緊張した声がひびく。

「ゴミ収集車か、幼稚園バスだ。どっちかは分からない。でも、他にそれらしい物は見当たらない。正確な距離はわからないか?」

 あるいはここで剣豪チェンジしてバイザーでサーチするか?

 隣でキナ子がすっと腕を伸ばし、二台を指さす。いや、正確にはうしろから着いて行っていた幼稚園バスを指さしたようだ。

 子供うけを狙ってか、ピンクに塗装された幼稚園バスがウインカーを点滅させてゆっくりと左折してゆく。横っ腹に金色の鳩のマーク。

「絶対に幼稚園バスの方ですよ」キナ子が自信たっぷりに答える。「幼稚園バスをジャックするのは戦隊モノではお約束ですから」

「そんな根拠かよ」士郎はうんざりして首を左右に振った。「中をのぞいたが、園児たちは普通だったぞ。運転手さんもちゃんと運転していた。どこにも妖怪なんていなかった」

「赤穂、三十メートル先でターゲットが左折した。そっちを追撃してくれ」

 士郎は目線を上げた。収集車は直進している。左折したのは幼稚園バスだ。

 士郎とキナ子は顔を見合わせた。キナ子が、ほーら、という表情で微笑む。黒縁眼鏡に隠れてわかりづらかったが、笑顔は結構可愛い。

「行くぞ!」

「はい!」

 二人は自転車を勢いよく漕ぎ出して、左折していった幼稚園バスを追跡した。

 速度をあげるため、歩道から飛び出し、車道へ出る。士郎の斜め後ろをぴたりとついてキナ子が走る。さすがはブゲイジャー、女の子といえども、なかなかよく走る。が、やはり自転車とバスではこちらが不利だ。すぐに追いかけたつもりだが、五十メートル前方でバスは次の信号を右折してゆく。

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