scene11 会得できた……かもしれない

 予備弾倉には、五発のマグナム弾が装填されている。

「但馬守にたのんで用意してもらった。おれのアイディアじゃないぜ。あづち姫のお母さんが忠告してくれたんだ。『部室にいたネコが、銃弾の数を数えてた』ったね。『おそらく妖怪の変化へんげだろう』ってさ」

「お母さんが……」ピンクガラシャはちいさくつぶやくと、予備弾倉をガラシャ・ガーランドに装填してイエロージンスケを振り返る。「たぶん、あの火車のやつ、防御用のバリアの予備はないと思うけど、万が一それがあった場合は頼むわ。いずれにしろチャンスは一回。もう弾切れだと思って油断している今を狙うわよ」

「はい」

 イエロージンスケは、腰の大太刀の鯉口を切る。ピンクガラシャは、ガーランドのボルトを引いて、初弾を薬室に装填すると、イエロージンスケにうなずいた。

 走り抜けていった火車が駐車場を大きく一周してこちらにもどってくる。

「よし、一瞬でも止まったら、おれたちが左右からあいつのタイヤを裂く。今度こそは仕留めようぜ」レッドムサシはぐいと突き出した親指を下に向けた。「成敗!」

 四人が通路に飛び出すと、待っていましたとばかりにランボルギーニはエンジン音をあげ、フル加速で突っ込んできた。

 イエロージンスケがぱっと先頭に出ると片膝をついて腰を下ろし、その肩にピンクガラシャがガラシャ・ガーランドの銃身を乗せて膝撃ちの姿勢を取る。左右で、レッドムサシとブラックジュウベエがスタンバイした。

 炎をまとったランボルギーニがそら恐ろしい加速で四人に迫る。青白いヘッドライトの光が見る見る強くなり、その攻防の中にピンクガラシャとイエロージンスケの姿が埋没した。

 撥ねられる!と見えた一瞬!

 ガラシャ・ガーランドの銃口が火を吹き、ランボルギーニのフロントガラスにびしりと蜘蛛の巣状のヒビが走る。瞬間的に走行ラインを揺らせたスーパーカーのフロントに、イエロージンスケが抜き放った大太刀の切っ先がめり込んだ。

「ぎゃぁぁぁぁー!」

 獣が泣き叫ぶような声を上げてランボルギーニがスピンし、駐車していた車の列に突っ込む。二台の乗用車に激突し、フロントをひしゃげさせて停止したランボルギーニの左右に着地してきたレッドムサシとブラックジュウベエが、手早く前後のタイヤを切り裂いた。

 赤い血が弾け飛び、炎をまとっていたランボルギーニのボディーは、燃え尽きる紙の張子のように消え失せ、中から一塊の炎が転がり出てきた。

 地面の上を転がった人魂様の炎は、へちゃりと伸びると、白に茶のまじった毛色の子猫の姿になってアスファルトの上に横たわった。四つの足と口から血を流した子猫は、虚ろな目を力なく開いて、駆けつけてきたピンクガラシャを見上げる。

 ガラシャは子猫に銃口を向けたが、「にゃあん」と力ない鳴き声をあげた子猫の姿に引き金を引くことができず、銃口を降ろした。

 が、その瞬間、赤い炎と変じた子猫はピンクガラシャの喉笛めがけて飛びかかった。

 あっとのけ反ったガラシャの喉元で、赤い炎がふたつに割れて消滅した。彼女の喉の数センチ先に、抜き放たれた大太刀の切っ先がある。飛びかかった火車を両断したのは、イエロージンスケの抜き打ちの一刀だった。

「あ、ありがと」かすれた声でピンクガラシャが礼を言う。

「いいえ、こちらこそ、ありがとう」イエロージンスケはすがすがしい声で礼を返すと、するりと大太刀を鞘に納める。「あっと思った時には、手が勝手に動いていた。これがきっとうちの母さんが教えようとしていた初発刀だと思う。いまの一瞬で、会得できた、……かも、知れない」

 イエロージンスケ、こと水戸黄粉は、ふふふ、と肩で笑った。



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