scene10 再びランボルギーニ



 妖怪火車がふたたび現れたのは、その翌日。前回とおなじアース・セレモニーホールの駐車場だった。時刻もほぼ同じ夜の九時。死体を持ち去るのが目的の火車としては、他に用がある場所がないといえばその通りなので、ここに出現するのは当然かもしれない。

 その夜の駐車場は前のときとは大きくちがい、隙間なく停められた車でほぼ満車状態。びっしり並んだ車の間を、淡い炎を立ち上らせたランボルギーニがゆっくりと前進している。

 のろのろと駐車場の中を巡回していたランボルギーニの行く手に、四人のブゲイジャーが立ちはだかったのも、前回同様。

「性懲りもなく現れたわね」長銃ガラシャ・ガーランドを構えたピンクガラシャが、呆れた様に肩をすくめる。

「今夜は葬式が三組入っているらしい。どうせその遺体を狙ってやってきたんだろうが、そうはさせねえ。今夜は絶対に逃がさないぜ」レッドムサシが腰のブゲイソードをするりと抜き放つ。

 距離は八十メートル。一度停車した火車は、甲高いエンジン音をあげると、フル加速で発進した。フルスロットルのランボルギーニにとって八十メートルは大した距離ではないが、それでもブゲイジャーが戦闘態勢を整えるには十分な間合いである。

「あんたの弱点は分かってるのよ」ガラシャ・ガーランドを構えたピンクガラシャは、膝撃ちの体勢で狙いをつけると、躊躇なくトリガーを引いた。

 今回は最初から、火車に有効なマグナム弾が装填されている。迫るランボルギーニのフロントガラスに向けて、赤色の光弾が超音速で大気を切り裂いて突き刺さる。

 ガシャン!

 なにかが砕ける硬質な音が響いて、きらきらと光る破片がランボルギーニのフロント辺りで飛び散った。マグナムの着弾をものともせず、無傷のランボルギーニが突っ込んでくる。

「なに、いまの?」驚いてリアサイトから顔を上げたガラシャを、バックアップについていたキナ子が脇から抱え上げて跳躍し、高速でつっこんでくるランボルギーニの正面から回避させた。走り抜けた火車は、リアのブレーキランプを点すと急減速。そのままステアリングを切って車体を回し、ハーフスピン状態からスピンターンしてこちらに向き直り、ふたたびフル加速でこちらに突っ込んでく。

「冗談じゃないわよ」ふたたびガラシャはガーランドを構えてマグナムを速射で二連射する。

 ガシャン!

 ガシャン!

 二発の銃弾を受けて、二枚のガラスが砕ける。なにかが火車の身体を銃弾から守っているようだ。

「一体どうなってるのよっ!」突っ込んできたランボルギーニを躱しながら、ピンクガラシャがイラついた舌打ちをし、赤いテールランプめがけてさらに追い打ちの一射を与える。が、正面からと同じく、後方からのマグナム弾も見えないガラスを撃ち砕くのみで、火車本体へダメージを与えることはできない。

 ふたたびスピンターンでこちらに向いて迫ってくる炎をまとったランボルギーニに向けてさらに五発目、最後のマグナム弾を撃ちこむ。が、その一発も見えないガラスを撃ち砕くのみ。そしてその一発で、ガラシャのマグナム弾は尽きた。

「冗談じゃないわ」微かに震える声でガラシャがつぶやく。「マグナムが通用しないなんて……」

「とにかく回避しましょう」イエロージンスケがピンクガラシャの腕を引いて車列の間に引っ張り込む。さっきまで二人がいた場所を、炎をまとったランボルギーニが甲高いエンジン音をあげて走り抜けてゆく。

「どうする?」ブラックジュウベエが反対側の車列の間からするどく尋ねてくる。「マグナム弾がないと、あいつを止めることができないんじゃないか」

「あたしが止めます」ジンスケが低く答える。「抜き打ちでフロントを切り裂けば、なんとかなると思うから」

「危険すぎるわ」ガラシャが首を横に振る。

「でも!」

「ガラシャ、これを使え」ブラックジュウベエの後ろに立ったレッドムサシが、ガラシャ・ガーランドの予備弾倉を放って寄越した。

 ガラシャは片手で受け止めると、一目見て驚きの声を上げた。

「どうして、これを?」

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