scene7 頼りにならない

「ああーん、もうっ!」レッドムサシにチェンジした士郎は、キナ子のことは諦めてバスの中に飛び込んだ。「頼りにならねえな」

 毒づきながらも、周囲を確認する彼の背後で、ドアが「ぶしゅー」という音を立てて閉じる。

 当然運転席にはだれもいない。まるで意志を与えられたかのようにハンドルが一人で動いてコースの微調整をしている。士郎はすかさずバイザーのサーチ機能を作動させた。しかし、運転席にはやはり誰もいない。少なくとも、姿を消した妖怪がハンドルを握っているわけではない。

「どこだ?」

 士郎はバイザーで周囲を見回し、妖怪の反応をサーチするが、エラー表示がでる。

「どういうことだ?」

 妖怪はいる。が、位置を特定できない。こんなことは今までなかった。とりあえずサーチ機能をオフにした士郎は、自分をガン見している幼稚園児たちに気づいて、「あ」と固まった。

 状況を整理しよう。

 いまこの幼稚園バスは、勝手に動いている。運転手はいない。バスの中には、赤穂士郎ことレッドムサシと、ざっと数えて十五人の園児たちが乗っている。現状泣いたり騒いだりしている子はいない。こういうバスって、引率の先生、いや保母さんとか乗っていないのだろうか?

「うわあぁぁぁぁーーーーん!」

 一番手前の席にいた女の子が突然泣き出した。すぐに伝染したみたいに、あちこちで泣き声があがる。あっという間にバスの中は子供たちの号泣の大合唱で満たされる。

「え? えええーーっ!」

 士郎は両手をあげてなにか言いかけ、すぐに諦めて、あげた両手で頭を抱えた。



 

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