scene4 壁
あわてて七メートルほど、飛びすさる。密かに練習して、いまやブゲイスーツの超強化筋力の使い方にも習熟してきていた。
何かいる。が、よく見えない。バイザーにタッチし、外側からパネルタッチして設定変更で輝度を変える。
暮れたかけた夕空を背景に、なかばステルス仕様のような巨大な物体が、うっすらと感知できた。
「なんだ、ありゃ」
想像よりはるかにでかい。
高さ四メートル、幅は二メートルくらいあるか。概算で畳四畳分くらいの巨大な壁がそこに立っていた。
正面から見て、厚さは分からない。ただし、こいつには手足がついている。巨体を支える太い脚と、役に立つのか怪しい短い腕。どちらも太さがコンクリートの電柱ほどもあるということは、この壁の厚さは最低でも三十センチはあるということか。
バイザーの内側に『塗壁』と表示される。データベースは名前だけで、あとのデータは「???」の表示がつづく。有名な妖怪『塗壁』は、実は正体不明の敵のようだ。
「士郎、敵と接触したか?」
但馬守から通信が入る。
「みつけた。『塗壁』の表示がバイザーに出てるぜ」
「気を付けろ。塗壁は謎の多い妖怪だ。攻撃方法も弱点も分かってない。慎重にいけ。すぐに黒田も桃山も駆けつけるから、無理するな」
「了解したぜ。とにかく防御力が高いってことだけは確実だろうさ」
士郎はブゲイソードを肩にかつぐと、塗壁に向かって突進した。カメレオンの保護色みたいに周囲の景色を映し出している壁面に向けて、左右の袈裟切りを試す。が、刃が入っていかない。まるでコンクリートの壁に模造刀で斬りつけているような感覚だ。表面を撫でるだけで、まったく効かない。
壁が、「うももももーん」という唸り声をあげたので、危険を感じて飛びさがる。
塗壁からなにかの攻撃がきた様子はないが、なにもない壁面に皺が生じ、それが鼻と眉と口元のような形を作る。ただし目や鼻孔や口腔といった穴は生じない。
なるほど、鉄壁の防御ということか。しかしいまの袈裟切りにやつは反応した。ということは、まったく効いていないということもないのか? とはいえ、嫌な感じだ。傷ひとつつけられない相手にダメージを与えることはできない。倒せるのか、この巨大な壁を。
「待たせたな、ムサシ! ブラックジュウベエ推参!」後方から声が降ってきて、黒いスーツを装着したブラックジュウベエが着地してくる。「ここは任せろ。強い打撃は脇構えからの打ちが最適なのだ! 見ていろ!」言うや否や、腰だめにブゲイソードを構え、切っ先を後方に流した脇構えに取りつつ、塗壁に向かっていく。
「セイヤーっ!」腹に響く気合を発し、身体ごとぶつかるような頭上からの大振りで斬りつけてゆくブラックジュウベエ。
ガインっ!という衝突音とともに刃が弾かれ、ジュウベエの身体も勢いを跳ね返されて後ろにすっ転んだ。
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