scene3 接触

 陽はすでに暮れはじめていた。赤く燃える夕陽が西の空に傾いている。

 士郎はママチャリのペダルを力いっぱい漕ぎながら、外環沿いの坂を上りきり、きつい下りにさしかかる。

 放課後から、生徒会へ提出する申請書の作成に、生徒会室へ用紙をもらいにいったり、黒田やあづち姫にサインをもらったり、顧問になってくれる田島先生が行方不明なので探してまわって印鑑(その印鑑を探すのに、あのおっさんは二十分以上かかっていた)をもらったりしていたので、授業が終わってからずいぶん時間が経っていた。空はまだ明るいが、背の高い街灯はすでに淡い光を灯しはじめている。

 ナビに従い、下り坂をおりる勢いのまま『象の鼻公園』にとびこんだ。

 このあたりは地元だが、学校の反対側になるとあまり来たことはない。この『象の鼻公園』も子供のころ自転車で遠乗りして何度か来た記憶はあるが、道順ははっきりおぼえていなかった。

 入口でママチャリを乗り捨て、そのまま公園内へ駆け込む。

 外環沿いで余った土地を公園に使用したような、歪んだ台形の敷地。妙にだだっ広く、遊具は象の鼻の滑り台と鉄棒、そして砂場のみ。水銀灯が気まぐれに立ち、中央にランドマークのように茶色い鉄柱が立っていて、そのてっぺんで青白い光を放つアナログ時計の針が午後五時を指している。

 士郎は油断なく周囲をうかがいながら、ポケットから刀の鍔を取り出した。変身用アイテム、ツバチェンジャーだ。目を凝らし、耳を澄ます。もし妖怪がいるのなら、先に変身しておいた方がいいだろうか? しかし、なにもないのにブゲイジャーになるというのもなんか間抜けな気がして躊躇してしまう。

 ツバチェンジャーを額の横にかざし、いつでも士魂注入できる体制で、ゆっくり進む。

 日が暮れて風が出てきた。ひゅうひゅうと街灯が声をあげている。周囲の木がざわざわと揺れはじめた。

 背後に何かいる。感じた瞬間、士郎はとっさに跳躍しながら、ツバチェンジャーのスイッチを入れた。

「士魂注入! 剣豪チェンジ!」

 一瞬のうちに亜空間から転送された防弾防刃防炎テクタイト繊維の強化服ブゲイスーツが士郎の身体を赤い炎を放って包み込み、空中でムーンサルトを打ちながら、「面頬オン」と同時に腰の大刀、ブゲイソードを抜き放ちながら縦一文字に薙いでいた。

 がいん!という手応えを感じつつ、すかさず上段から真向に切りおろし姿勢のまま、左手だけを柄から離してバイザー・オンした。

 ブゲイスーツのセンサーが起動し、さっきまで肉眼では何も見えなかった空間、士郎のすぐ前、三十センチの距離に細かい網目模様があった。

「うおっ、近っ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る