scene2 大名行列
毎日毎日ご苦労なことである。大江戸高校名物。あづち姫の大名行列。実際には大名行列というより、花魁道中にちかい。
あづち姫とは一年生のとき一緒のクラスだった。入学当時は、近隣の中学に聞こえた美少女が大江戸高校に入ってきたと先輩たちの間で話題になり、同級生は近寄り難い存在だった。それが二年、三年と進級するうちに後輩たちの憧れの的から、カリスマへと成長し、いまやすっかり学園の女王。彼女が帰宅するとなると、一年生二年生の崇拝者が男女入り乱れてお見送りをするため、ものすごい人数の行列と見物人が校舎から校門まで続く。
たしかに彼女は美しい。CGで描かれたような完璧な美貌。天使のように愛くるしい笑顔。成績優秀、運動神経抜群。父親はでっかい会社の社長で、家は金持ち。毎日運転手が高級車でお迎えにあがる。
が、だからといってこの騒ぎは異常だろ。士郎は人垣の薄い場所を見つけてママチャリの前輪をねじこんだ。
「はい、ちょっとごめんよ。通してね」
見物客の一年男子集団を掻き分けて校門方向へ自転車を押す。
「あら、赤穂くんじゃない。ひさしぶり」
うしろから声を掛けられて振り返ると、肩からスポーツバッグをおしゃれにかけたあづち姫その人が立っていた。どうやら大名行列の真ん前に出てしまったらしい。これが江戸時代なら打ち首ものだが、二十一世紀の現代でも、あづち姫の後ろに従う連中は士郎のことを斬首にしたそうな目で睨んできている。
「おう」とだけ言って去ろうとするところをあづち姫の言葉が引き止める。
「なに、またゲーセン? たまには世の中の役に立つこともしなさいよ」
あづち姫は抜群の運動神経と明晰な頭脳、天性の美貌を持つうえに、勘も鋭いときく。二年生のころは、助っ人として運動部の公式試合から演劇部の客演、美術部と書道部のコンクールとあちこちの部活で活躍してきた。対して士郎はというと、いつも定時に下校して、ゲーセン通い。たしかに、「世の中の役に立つこともしなさいよ」と言われても仕方がない。
「へいへい」
ここは下手に反論しても詮無きこと。士郎はおとなしく頭を掻いて退散することにした。
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