scene15 彼が選ばれた理由
翌朝、すこし早めに起きた赤穂士郎は、まだ人がいない教員室へ田島先生に会いに行った──、といいたいところなのだが、早起きは苦手だし、あの田島が早朝から学校に来ているとはとても思えないので、昼休み、弁当をくってから教員室に顔を出した。
「先生」士郎が声をかけたとき、田島先生は椅子に背をあずけ、スプリングをきしませて身体をゆすりながら、難しい顔をして生徒名簿を睨んでいた。士郎が声をかけると、「おう」と人懐っこい笑顔を浮かべて彼を見上げる。
「どうだ、剣豪戦隊ブゲイジャーになった気分は?」いたずらっぽい目で笑う。
士郎は近くに人がいないのを確認して、それでも声をひそめる。
「あれは一体なんなんですか? そしてあの妖怪たちは?」
「ブゲイジャーの装備についてはまだ詳しい説明はできない。妖怪は、まあ妖怪だな」
「なんの説明にもなってないじゃないですか」士郎はがっかりして肩をおとす。「こっちは死ぬ思いしてあの土蜘蛛を倒したんですよ」
「はっはっはっ、悪いな。ブゲイジャー装備については国家機密が絡んでくる。それをなぜおれがお前たちに配れるのかは、まだ話せない。妖怪については、あいつらはだいたい三百年ごとに活発な動きをすることがわかっていて、いまがその三百年目というわけさ」
「とすると、三百年前にも妖怪は暴れてたってことですか」
「そうだ。おれたちはこの世をあいつら妖怪の好きにさせるわけにはいかないんだ。今回の土蜘蛛も、実は事前にある程度の情報は集めてあったんだ。あの保健所跡地が怪しいことも分かっていた。ただ、黒田と桃山の二人だけで突入するには危険が大きい。そこでどうしてもお前という人材が欲しかった」
「あまり役には立ちませんでしたけどね」士郎は肩をすくめた。
「そんなことはない。お前には黒田にも桃山にもないものがある。おれはそれに賭けた」田島先生は満足そうにうなずく。「結果として、今回はおれの、いやおれたちの勝ち、だな」
不敵に笑った田島先生は、ふたたび生徒名簿に目を戻した。
「なあ、赤穂。そのためには、最低でもあと一人、メンバーが欲しい。おまえ、自分のクラスとか、隣のクラスでもいい。後輩たちの中からでもいいぞ。名前に色の入ったやつ、知らないか? できれば黄か緑がいいんだが、いなければ妥協して白でも金、銀でもいいんだがなぁ。あるいは女子で青って線もあるなぁ」
「ちょっと、待ってください」士郎は口元を引き攣らせて笑顔を作ろうとした。「あの、もしかして、ブゲイジャーって、名前で選んでるんですか? つまり名前に色が入っているやつが選ばれている、とか?」
田島先生は、驚いたように士郎の顔を見た。
「え? 戦隊のメンバーって、そうやって選ぶんだよな?」
「ふ、っざけんな!」
士郎は、机の上にあった出席簿を掴むと、渾身のフルスイングで田島先生の頭を叩いた。
ぱーん、という小気味良い音が教員室に響きわたった。
ブゲイジャーの戦いは、まだ始まったばかりである。
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