scene11 再戦

 塗壁が再び現れたのは、翌日土曜日の午後七時過ぎだった。

 但馬守が妖怪サーチャーによって探知した位置情報によると、前回探知した『象の鼻公園』の南方三百メートル。連絡を受けた時、士郎は自宅にいたが、但馬守からの指示で、『象の鼻公園』に直行して黒田とあづち姫に合流し、その場所で塗壁を迎撃することに決定した。

 前回塗壁の防御力に歯が立たなかった場所。塗壁の進行方向は違うが、例の時計が夜空に青い光を放って時を示している。

 塗壁の公園進入に先んじること約一分。公園に集合した三人は、すかさず剣豪チェンジして陣形を整えた。

「赤穂くん、例の物、もらってきてくれた?」

「ああ、これだろ」士郎はオレンジ色のボールをあづち姫に手渡した。「ほんとは三千円くらいするらしいけど、防犯訓練を手伝ったご褒美で、ただで分けてもらってきたよ」

「防犯用のカラーボールなんか、何に使うんだ?」黒田が横から口を挟む。「逃げた塗壁を追跡するつもりか」

「今回は、逃がすつもりなんてこれっぽっちもないから」掌の上のカラーボールをもてあそびながら、あづち姫はピンクのブーツのつま先で地面の砂を削って、びーっと長い直線を描いた。「今日は一歩も引かないわ。この線から向こうに絶対行かないから」

 そう言って、地面の線を越えると、ガラシャ・ガーランドを肩に担いで士郎と黒田を振り返る。

「塗壁が公園内に入ったら、攻撃開始よ。あんたたち、武芸奥義はちゃんとマスターしてきたんでしょうね」

「男子三日会わざれば、すなわち括目して見よ、だ」黒田が偉そうに言って、腰のブゲイソードをするりと抜き放つと、あづち姫の書いた線を越えた。「完璧だよ」

「ま、やられたまんまってのも癪だからな」士郎も苦笑して抜刀し、線を越えると、黒田に肩を並べた。「距離を調整するコツさえつかめば、かなり使える必殺技だぜ」

「三人とも、塗壁の反応が近いぞ。注意しろ」イアフォンを通して但馬守の声が届く。

 三人がバイザー越しに視線を向けると、公園の向こう端に巨大な姿がうっすらと浮かんで見える。

 高さ四メートル、幅二メートル。太い腕を生やし、さらに太い脚で立つ巨大な壁。距離にして二十メートル強。巨大な壁は足を動かすことなく、ゆっくりとした速度で地面の上を滑るようにこちらへ進んでくる。

 ピンクガラシャは一歩前に出ると指をパチンと弾いた。

「ブゲイジャー、アタック!」

 鋭く叫ぶや否や左足を大きく蹴りあげると、右手に掴んだペイントボールを目が覚めるような見事なサイドスローで投擲した。ぶん!と風の音を立てて飛んで行ったペイントボールが、塗壁の腹の中央に見事に命中し、ピンク色の蛍光塗料をぶちまける。

「あのペイントを目標に、すべての攻撃を集中、一点突破で行くわよ」

 ガラシャはガーランドを構えると、バナナ・マガジンを装填して狙いをつけ、塗壁の腹に銃弾をフルオートで叩き込み始めた。強烈なマズルファイアと激しい光弾の奔流が夜の公園を赤く染める。つぎつぎと突き刺さる光弾が一点に集中するが、塗壁は何事もないかのようにゆっくりと前進を続けている。

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