scene4 突入



 警察が持ってきた風呂敷包みを、半分開いたシャッターごしにヒトガタ二号くんに受け取らせたショウは、「おしおし」と機嫌良さそうに包みをカウンターの上に置いた。そっと人差し指を伸ばして、感電しないか確かめるように、おっかなびっくり触れてみる。なんともないと分かると、満足そうに包みを開き、中の段ボール箱の蓋をとった。

 がさがさと新聞紙につつまれた中身を確認したショウは、一目見て不機嫌になった。

「なんだこりゃ」さっと顔が白くなり、怒りに表情を歪めた。箱の中に手を突っ込んで、なにか古木の破片みたいなものを取り出すと、怒りに任せて床に叩きつけた。木の枝の一部みたいな形の、ものすごく古い木材が、ほこりを上げて二つに折れた。「ふざけやがって、人間めが」

 怒りに拳を握りしめたショウの顔は、すでに人の仮面を脱ぎ捨てていた。額に黒い筋が幾本も走り、目は金色に輝いている。頬まで裂けた唇の間からは、サメみたいにびっしり並んだ鋭い歯がのぞいていた。

 正体を現したショウの妖怪の面貌に、人質の人間たちが低い悲鳴をもらす。

「アミキリ! 五人だ! 人質を五人殺すぞ!」

 やはり、そういう展開か。

 なかば予想していた赤穂士郎は、警察が『人魚のミイラ』を渡しに来たどさくさに紛れて、人質集団の一番奥に移動していた。靴の中に仕込んだつばチェンジャーを取り出すと、手の中に握りしめる。もう猶予はないな。そう感じた時、突然に表のシャッターが騒がしい音を立てて上がり始めた。

 妖怪も人間も、同時に動き出したシャッターの方を見る。が、彼らの視線を受けたシャッターはこれまた突然に動きを止めた。ダルマさんが転んだか? みなが、ん?と首をひねるタイミングで今度は反対側のシャッターが動き出す。何が起こっている? 警察の特殊部隊SATが突入してくるのか?

 ショウが受けて立つぞ、とばかりに開いてゆくシャッターへ向けて歩き出す。恐れる風もなく、外からのライトの光芒に身をさらした。その彼の頭部が、爆竹を仕込まれたスイカのように爆ぜて血しぶきを後方にまき散らす。ショウの身体は、蹴飛ばされたマネキンのようにばったりと後ろへ倒れた。

 人質の中から悲鳴があがる。

 アミキリが倒れたショウに駆け寄り、「ショウさま」と不気味に割れた人外の声をかける。

 室内を激しいパニックの嵐が襲う。が、士郎は、ショウが倒れる一瞬前、緑色の光弾が彼の頭を撃ち抜いたのを目視していた。ガラシャだ。ピンクガラシャが狙撃したのだ。

「人質を殺せぃ」アミキリがヒトガタに命じる。一体のヒトガタがすぐに反応して銃を構え、ひとかたまりに身を寄せ合っていた人間たちに銃口を向けた。

 もう猶予はない。

 士郎はツバチェンジャーを握りしめると、カウンターの内側に駆け込んだ。何体かのヒトガタが彼を追って銃口を巡らせる。

 そのとき、外で爆発音があがり、駅前ロータリーの端で炎が吹き上がった。パトロールカーが一台、激しく火を噴いて燃え上っている。

 士郎が、よし今だと、ツバチェンジャーの電源ボタンを押したまさにそのとき、「痛ってえなぁ」と後頭部をさすりながらショウが起き上がった。そしてそこに、ピンクガラシャと、つぎにイエロージンスケが突入してきた。




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