scene13 ガラシャ

「え? だれ?」

 士郎の問いに答えるように、ガラス窓のひとつが砕け散り、外から大江戸高校の制服が飛び込んできた。紺のブレザー。グレーのミニスカート。くるりと床の上で猫さながらに前方受け身をとった生徒は、何事もなかったように立ち上がると、学校指定のスポーツバッグをおしゃれに肩にかけてゆっくりとこちらに歩いてくる。

 天使のような美貌。口元に浮かぶ穏やかな微笑。肩にかかる柔らかい髪が風に揺れ、すらりと長く白い脚で、自信に満ちた様子で歩んでくる。

「あづち姫?」士郎はきょとんとつぶやいた。

 素早く反応した土蜘蛛が、牙に覆われた口器を開いて白い矢のような糸をしゅっしゅっと飛ばす。が、二連続で飛んできた白い矢を、彼女は微笑みを浮かべたまま、くるり、くるりとターンを決めて躱すと、手にした鍔を突き出した。

「士魂注入。剣豪チェンジ!」

 ぱっと足元からピンク色の桜の花びらが舞いあがり、次の瞬間、桃色のブゲイスーツに包まれた戦士の姿がそこにあった。

「剣豪戦隊ブゲイジャー・ピンクガラシャ、桃山あづち推参」

「ガラシャって、それ剣豪とちがうやん」士郎のつっこみは無視される。

 ピンクガラシャのブゲイメットにはかんざしと櫛が刺さり、銀色の籠手アーマーと脛当アーマーは少し長めで、肘と膝のかなり上まで覆っている。桃色のブゲイスーツは袖なしで、下はミニスカート。本来肌の見える部分は黒いストッキングのようなネット状の鎖帷子のようなものに覆われていて、腕と腿の線が露わになっている。腰の帯は細く、鍔なしの脇差が一本ささり、反対側にはホルスターに入った拳銃を装備していた。そして、背中には長大な薙刀を背負っている。

「二人とも、お下がりなさい」

 あづち姫、もといピンクガラシャは、背負った薙刀を肩に担ぐようにして前に回すと、腰だめに構える。薙刀とみえたそれは、どう見ても先端にながい銃剣を装備した長銃だった。

「剣じゃねえじゃん!」士郎は叫ぶ。

「ガラシャ・ガーランド。マシンガン・モード」ピンクガラシャは構えた長銃にバナナマガジンを叩きこむと、ボルトを後退させ、躊躇なくトリガーを絞った。「二人とも、よけなさい!」

 銃口からマズルファイヤーが吹き出し、高温燃焼を意味する青い炎の塊が超音速で高速連射される。土蜘蛛は躱す間もなく、高速弾の連射にさらされる。

「うっわぁっ!」

 悲鳴をあげて士郎と黒田が床に伏せるが、タイミング的にはまったく間に合っていない。狙いが正確だったからよかったものの、それでも着弾の衝撃波がブゲイスーツをぶるぶると震わせ、ブゲイメットのセンサーが赤い警告を眼球に直接表示してきた。必死に回避行動をとって床に倒れ込んだ二人が、ふり仰ぐと、彼らの目の前で土蜘蛛の身体が火を上げて燃え上がっていた。

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