59話 あなた好みの女にしていいから
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「……大丈夫そうだよな?」
「だよね?さっきより雰囲気もいいし……」
カフェから出た後、俺たち4人は次のデートスポットである映画館に向かいながら時間をつぶしていた。前には秀斗と藍坂さんのペアがいて、俺たちはその後ろでこそこそと話しながら歩いている。
「…………………」
「…………………」
二人の間で会話がないのは朝と同じだった。でも、なんとなく雰囲気が違うというか……さっきみたいなぎしぎししている状態ではない。むしろ、二人はたまに目を合わせた途端にパッとそっぽを向く、まるで初々しい学生カップルみたいな反応を見せていた。
まあ、この分だとカフェで二人だけの時間を作ってあげたのは正解だったんだろう。その証拠に、俺の彼女さんもさっきからずっとにやにやして二人を見守っていた。
「そういえば唯花、なに見ようかはまだ決めてないんだよね?」
ふと振り返りながら問うてきた藍坂さんの質問に、唯花は頷きながら答える。
「うんうん。具体的なものはまだ決めてないけど、そうだね……アニメの劇場版もいいし、なんなら最近出たアクションものあるじゃない?それ見ても全然大丈夫だけど」
「……もしよかったらさ」
なんだかバツが悪そうな顔で、藍坂さんが言ってくる。
「行く途中でちょっと寄りたいところあるけど、そこ先に寄ってもいいかな?あ、もちろん桑上さんもよければ……」
「あ、俺は全然大丈夫ですよ?特に見たい映画があるわけでもないですし」
「私もOKだけど……寄りたいところ?どこに行く気なの?」
「それは、着いてからのお楽しみってことで」
どうやら秀斗は前もって伝えられていなかったか、彼女の話を聞いて明らかに驚いた顔をしていた。
それでも何も口に出すことなく、あいつは俺たちと一緒に藍坂さんについていく。それから目の前に現れたのは、おしゃれなジュエリーショップの外観だった。
そして店の看板を見るなり、秀斗はたじろいだ顔で藍坂さんに向き直る。
「っ………!君!」
「なに?」
しれっと一言をつぶやいた後、藍坂さんは俺たちに振り返ってから言う。
「二人ともペアリングはまだ買ってないんでしょ?ここ、値段もお手ごろだしデザインもいいから、おすすめだよ」
「あ……そっか、確かにペアリングはまだだけど……えっ?」
……そうだよな?お前もそんな反応するよな?
なんで急にジュエリーショップ?まあ、ペアリング買うのは普通にいいけど、このタイミングはちょっとおかしいのでは……。
「うん……まあ、いいよね!分かった!」
「えっ、ちょっ……」
でも、俺より受け入れるのが早い唯花はすぐに藍坂さんと肩を並べて店に入っていく。残された男2人組は呆れながらも、店内で入っていくしかなかった。
店の隅で、俺は小声で秀斗に聞いてみる。
「もしかしてここ前に来た事あるのか?お前の反応すごかったぞ?」
「……………………………ふぅ」
「うん?どうしたんだ?」
「……………………指輪」
「うん?」
「婚約指輪……買ったところなんだよ、ここ」
「えええっ!?はっ……すみません」
急に大声で叫ぶから、唯花と藍坂さんを除いた客たちが俺を見てくる。俺は口元を隠して謝りながらも、固まった顔の秀斗に聞いた。
「こ、婚約指輪……!?婚約までした仲だったのかよ!それは聞いてないぞ?」
「…………詳しいことは後で説明するから」
「あ、あ……」
なんとも言いにくい事実を聞き取った後、まるで秀斗と入れ替わるようにして唯花が俺の隣に来る。
秀斗は短いため息をこぼしてから、藍坂さんのところに行った。
「どうしたの?めっちゃ大きい声出してたけど」
「あ、いや。ちょっとショックな事実を聞き取ってしまって……はは」
「ううん……?後で教えてね?」
「ああ、家に帰る時に教えるわ」
向こうを見ると、藍坂さんと秀斗がまた無言で視線を交えていた。なんというか……危なっかしいというか、二人がなにを思っているのかよく分からないな。
「……白」
「うん?」
「せっかくここまで来たんだしさ、ペアリング買っていかない?私、こういうのにちょっと興味あるんだよね」
「こういうのって?お前、昔からアクセを買い集める趣味はなかった気が……」
「……むっ」
わざとらしく頬を膨らませた後、唯花はパッと俺の腕を掴んでくる。
「形で残る物に興味があるってこと。ほら、私たちってお互いにプレゼントとかあんまりしたことないんでしょ?だから」
「ああ、そういうことか。それならちょうどいいかもな」
付き合って2週間も経たないうちにペアリングなんて、ちょっと早すぎる気もするけど……どうせ俺も唯花もお互い別れる気はゼロだし、唯花の気持ちを考えても買った方がいいだろう。なにより、俺も買いたいし。
そうやってペアリングが並んでいるスペースに移動すると、ふと唯花が思い出したように拍手を打って聞いてきた。
「あ、ピアスも開けるのはどう?白、ピアスしている女は嫌い?」
「いや?嫌いとは思わないけど、なんで急にピアス?」
「……白が選んでくれたものでおしゃれしたいから?」
「っ……!?」
きゅ、急に公共の場でなんてことを言うんだ、こいつ………!?
びっくりして目を向けたら、唯花はまるでいたずらに成功した子供のような顔でニヤリと笑っている。若干、顔も赤らめせながら。
「なんか、感じるじゃん。あなたと一緒に買ったピアスに、ペアリングに、ネックレス。その他にも色々と……もっと、日常の中で感じたいもん」
「………ゆ、唯花……」
「ふふっ」
もう一度笑ってから、唯花はつま先立ちになって俺の耳元でささやいてくる。
「私を、あなた好みの女にしていいからね?」
「~~~~~~~~!?!?!?!?」
こいつ、本当に………!
「ふふっ、顔真っ赤」
「いや、これは……!これはお前が悪いだろ!」
「ああ~~なに言ってるのかよく分からないな~ていうか、早く選ぼう?どっちもいいから悩むね、これは……あ、ピアスも開けようか?嫌ならネックレス選んでくれてもいいけど」
「……俺が選べばなんでもつけるつもりなのかよ」
「うん、当たり前でしょ?」
言葉通り、当たり前だと言わんばかりの顔で唯花が目を丸くしてこちらを見て来た。
「私、あなたの彼女だもん」
「…………………」
……なんか、恋人になってからはずいぶんと攻めてくるようになったな、こいつ。
その愛の深さに若干怖気づきながらも、俺は唯花と手を繋ぎながら、指輪のデザインを次々と確認し始めた。
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