22話 えぐっ…………
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『………や、やめろ、
『なに言ってるの?
『くっ……どうして、どうしてこんなことをするんだ!』
『それ、本気で言ってるの?光くんが私の気持ちに気付いてくれないからじゃない!私を見てくれないから!いつもあの女ばかり見てるから!!ねぇ、教えてよ。なんであの女なの?あの女は光くんの彼女のくせに、光くんをいない人扱いしてるんだよ?もう他の男とホテルに入ったという噂もあるじゃない!なのに、なんで……?』
『理恵……それは』
『私、私はね?私が光くんに選ばれないのは納得できるの。いくら幼馴染だからって、友情が必ず愛に繋がるわけでもないから。でも……私、光くんが幸せになれないのは、納得できないの』
『…………………………理恵』
優しい光くんは、私の泣き崩れている姿を見て悲しそうな表情を浮かべている。
本当に、おかしな光くん。酷いことをしているのは私の方なのに、なんであなたが苦しそうにしてるの。
『……歪だってことくらいは分かってる。正しくないのも分かってるの。でもね、でもね……?私はもう、我慢できない。光くんがこっちを見てくれないなら、私が直接、振り向かせてあげる』
『……理恵!』
『だからね?私があの女のことを忘れさせてあげる。この前に光くんが約束ドタキャンされた時だって、あの女は他の男とデートしてたんでしょ?あんな酷い女なんか光くんに相応しくないよ。だから……ふふふっ、だからね?』
……だから、私が染めてあげる。
愛されなくてもいいの。でも、今だけは私の色になって。私が全部忘れさせてあげるから。もう、何も考えないくらいに真っ白に染めてあげるから。
両手を後ろにきつく縛り付けられたせいで、光くんはもう身動きが取れない。それをいいことに、私は光くんの上に跨って頬に両手を添えた。
『……お願い、光くん。動かないで』
『っ……!』
『もういいから。光君は大人しく、私のものになればいいよ』
『な、なにするつもりだ……!』
『先ずは、そうね……キスマークをつけるべきだよね。そうそう、ここの首元……服の襟では隠せないここにキスしたら、光くんは私のものなんだ~って、みんなに知らせられるから……うん、ちゅっ、ちゅうぅっ』
『っ……!り、りえ!』
『……ふふっ、体は正直じゃない。もっとキスマークつけてあげるね?その後は、このたくましい胸板にも、腹筋がごつごつしているこのお腹にも、太ももにも、膝裏にも、足の指一本一本まで……私がぜ~~んぶ、愛してあげるからね?』
『やめろ、理恵!こんなことしたって何も変わらな――――』
『うん、変わらなくてもいいよ?』
私は心の底からこみ上がってくる笑みを湛えながら、光くんの耳元でささやく。
『変わるまで、私が何度も愛してあげればいいだけだし』
『そんな……りえっ!!』
『ふふっ、ん………ちゅっ』
最高な気分だった。私が光くんを支配している。光くんが私のものになっている。その事実を噛みしめるたびに、お腹の下が熱くなって――――――――
………………………………………えぐっ。
えええ……?あいつ、こんな性癖持ってたのか?こんな、男を無理やりレイプしながら調教するような……普通にヤバいじゃんか。ハードルが高すぎだろ。体位も全部女性上位のものばかりで、最後には男が完全に調教されてヒロインに何もかも管理されるオチだし。
「…………………………………………ヤバい」
見てはいけないものを見てしまった。いや、初めては単純な興味本位だったのだ。あいつが夏白唯だってことにもちろん驚いてはいたけど、俺にとって夏白唯はけっこう推している作家でもあるから。
だから、あいつが前に書いたというエロ小説にも自然と興味が出て。グーOルで検索したらネットで書いた小説も案外すんなり出てしまって。仕事もちょうど終わったし、帰りの電車で見ようと軽い気持ちでページを開いたんだけど………これは、見てはいけなかった気がする。
先ず、タイトルからヤバかった。<ビッチ彼女に捨てられた幼馴染を調教する話~クズ女を忘れるまで行われるラブラブコース~>………なんて。
タイトルを見ただけでも引いたのに、それでも唯花の性癖をもっと理解したくて覚悟を決めてから開いたんだけど……うん。やっぱり開いちゃいけなかった。あそこで絶対に止めるべきだったわ……。
「………………………はああああああ」
電車から降りて家に向かっている途中、思わずそんなため息を吐いてしまう。
どうしよう。えっ、俺もあんな風にならなきゃいけないのか?身も心もすべて調教されて最後には唯花に手を見ただけでも体が先に反応する………………そんな男にならなきゃいけないのか?
ヤバい、ヤバいぞ、これは。どうしよう。ハードルが高すぎるんだけど。あの性癖にはちょっと答えられそうにないけど……どうすればいい?努力したらできるのか?いや、そもそもあのキャラのモチーフは俺なんだよな?見た目も性格もなんか俺に似ていた気がするし、じゃあいつはやっぱ俺にそういうことを求めて……!!
「ああああああぁ…………………マジでどうしよう…………」
正直、俺も重症だと思う。あいつがあんなえぐい小説を書いたヤツだと知りながらも、離れる気にはならないから。むしろ俺の頭には、どうやったらあいつの性癖に合わせられるかという悩みだけが募っていた。
ふぅ……まあ、うん。先ずは落ち着こう。時間もまだ十分あるんだし。あいつも自分の正体がバレたことにはまだ気づいていないだろうし、このままゆっくりと心の準備をしていけばいつかは………いつかは、あいつの性癖も受け入れられるはずだ。そう、いつかは。
そのいつかがいつになるかは、やっぱり分からないけど……。
「………ふぅ。よっし、行くぞ」
頑張って耐えるんだ、桑上奈白。もうお前には唯花しかいないだろう。好きな人のためならそれくらいは犠牲にするべきだろ!!
考えているうちにマンションに着いて、俺はエレベーターに乗ってから家のドアの前までたどり着く。
再び深呼吸を重ねて、もう一度自分に活を入れてドアを開けた瞬間――――。
「あら~~おかえり!白!」
何故か、玄関の前で野球バットを片手に持っている唯花とばったり目が合ってしまって。
そして、その目はもう確実に死んでいて。
「ぁ……失礼しました」
俺はそのまま、何事もなかったようにゆっくりとドアを閉じた。
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