25話  もう幼馴染扱いはいや

夏目なつめ 唯花ゆいか



私が悪いと思う。


そう、私が悪いと思う。私が説明する時にウソをついたから……好きだと気づかれたくなくて、重い女だと思われたくなくてうっかりウソをついたから、白もあんなことを言ったんだ。


幼馴染だから、そういうことは困るって。



『………………………バカ』



その言葉を聞いて、浮いていた心が風船が弾かれたようにパッと爆発してしまう。思わず、涙が出そうになった。


違うの。全部あなたとイチャイチャするところ想像して書いてたのよ。エロいヤツだって、あなたと全部ああいうことやりたいと思ったから書いたの。でも、そんなことを言うのが恥ずかしくて……白がどういう反応をするか、怖くて。


私たちの仲でそんなことできるわけがないって、うっかり言っちゃったけど。



「………………唯花?」



………なんで気づかないのよ、バカ。


知ってる?あの発言をした時にはね。私の心臓もものすっごく痛かったんだよ?言っておきながらもそれは違うって、叫びたかったんだよ?


私、もう数えきれないくらいあなたに抱かれる想像してたのに。唇がふやけるくらいにキスされて、理性なんかドロドロに溶かされて、優しくハグされながら何度も愛される妄想を何度も、何度もしてたのに。夢にまで見てたのに。


……こんなの、我慢できない。理性がドカンと崩壊して、もう欲望のままでしか動けない。


幸い、私にはこの話を主導できる権利を持ってる。


そう、罰ゲームだ。



「罰ゲームって……どういうことだよ?」

「とぼけるつもり?あなた、私のスマホ勝手に使ったでしょ?私が寝ている間に鈴木さんから来た連絡、あなたが勝手に出てたじゃない」

「あ……………………ああ、そうだな。ごめん、それを先に謝るべきだった」

「……いいの、怒ってないから」



プライバシーの尊重は私が一番大事に思っていたことだった。でも私の正体がバレた以上、もうそれに執着する必要はない。


ただ、ルールはルールだ。今の私は、白に何もかも命令することができる。白もそれを知っているからか大人しく座りなおして、私を見つめてきた。


……なにを、命令すればいいか。


そんなの、決まっている。



「それで、どんな罰を受ければいいんだ?実際にルールは破ったわけだし、どんなことでも甘んじて受け入れるつもりだが」

「……どんなことでも?」

「そう、どんなことでも……って、あまり変なことは命令するなよ?」

「ふう~~ん。どんなことでも、ね」



……そういうことをサラッと言うんだから。本当に、いけない男。


もうちょっと焦らしたいけどもう私の心臓もパンパンになっていたから、さっそく言うことにした。



「じゃ、私の創作活動に協力して」

「………………………は?」



白は拍子抜けした声を上げて、首を傾げてくる。



「なに?なんでも命令していいって言ったでしょ?私の創作活動に、協力してよ」

「いや……協力と言われても。具体的に何をすればいいんだよ」

「そうね……」



私は頬杖をついてから、わざとらしい笑顔を湛えて見せた。



「まあ、色々かな?ちょうど私、ぼくすてのプロット作らなきゃいけないんだよね。ぼくすては現代ファンタジーだけどラブコメ要素もだいぶ含まれてるから、あんたは主にそっち方面の活動を手伝って欲しいかな」

「そっち方面って……ラブコメ?」

「うん。端的に言うと……で、デートするとか。作品の舞台になりそうな場所に行ってみたりとか、後はより生々しい体験をするために、シチュエーションを設定して演じてもらうとか……もちろん、フィードバックも兼ねて」



………ううっ、恥ずかしい。


白も既に知っているだろうけど、ぼくすては私の作品の中でもけっこうストレートで生々しい作品だった。デビュー作のおさ結婚とかハツルプはじれじれ感を重視してたけど、ぼくすては正しくド直球。


気持ちこそ言葉にしないものの、肌の触れ合いやキャラたちの感情だけは生々しく、ストレートに描写することに重みを置いているから。


そして、そんなストーリを書くために必要なのはとにかく欲望と没入感で。その没入感をより強く活かせるためには、やっぱり似たような体験が必要なわけで……そう。似たような体験が、必要なわけで……。



「えっと……つまり、ラブコメみたいなことをお前とやる……ってことだよな?」

「………………そう」



怒りで暴走した頭でもヤバいことを言っているような自覚はあった。だって、こんなのはもう自分を異性として認識しろと言っているようなものだし。こんなの、もう告白まがいな命令でしかないから。


そのことを知っているからか、白もしばらくは何も言わなかった。唇をすぼめて後ろ頭を掻いて、私の発言の意味を嚙みしめるようにずっと考えていて………私はその戸惑いを見ながら、心でずっと祈るだけだった。


お願い……お願い、白。断らないで。お願い……と。


そして、そんなわたしの願いが届いたのか――――



「…………分かった」



白は、さっきより少し赤くなった顔で頷いた。



「罰ゲーム、だからな。命令だから、聞くしかないよな……分かった」

「………………………そう」



まるで、自分に言い聞かせるような口調が少し気になったけど。


でも、そんな些細なことがどうでもいいくらいに、心がまた膨れ上がる。



「……ちゃんと、協力してよね?素敵なプロット、作らなきゃだから」

「ああ、元々は俺が悪かったんだからな。いくらでも………いくらでも、協力するわ」

「……言質取ったわよ?後で引き返すの禁止だからね?」



……………ずるい女でごめんね?


でも、こうでもしないともう耐えられないの。もうあなたにただの幼馴染扱いされるのは死んでも嫌だから。20年近くそんな扱いされてきたから……もう、いいでしょ?


私が女だってこと、ちゃんと認識させてあげるから。


覚悟、してよね……?白。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る