40話 分かりやすい嫉妬
<桑上 奈白>
新幹線で2時間くらい揺られた後にまた電車に乗って、俺たちはとうとう目的の温泉街にたどり着いた。コインロッカーにキャリーバッグを入れた後、俺は後ろ首を手で抑えながら呟く。
「うあぁ……首が回んない」
「ぷふっ、大丈夫?」
「大丈夫だけど……ていうか、お前ずっと起きてたよな?俺一体どんな体勢で寝てたんだ?」
「うん~~秘密」
「………秘密?なんで?」
「秘密だから教えてあげない、ひひっ」
……なんでこんなに上機嫌なんだ?ていうか、この痛さだとずっと首を傾いて寝てたっぽいけど……だったら少しは姿勢を直してくれてもよかったじゃんか……。
「まあ、旅館のチェックインまではまだ時間あるし、先ずはお昼食べようよ!お昼!」
「そうだな、行くか」
ゴールデンウイークであるにも関わらず、観光客はそんなに多くなかった。街並みがこんなにも古風で心地いいのにこんなにも客がいないなんて、ちょっともったいない気もする。
でも、今はとにかく唯花と一緒に旅行を楽しむのが大事だから。俺たちはさっそく近所の蕎麦屋に入って、お昼を解決した。
「うん~~美味しい!」
「お前本当おいしく食うんだよな~」
「だって美味しいんだもん!あっ、そのえび天も~らいっ」
「なっ!?何してんだよ、せっかく最後まで取っといたのに!」
「ええ~~そう?私はてっきりダイエットでもしてるのかなと思って~ひひっ」
「この……!高校時代の破天荒っぷりがついに出たな!」
「なに言ってんの?私はいつだっておしとやかな大和撫子だったのに、おほほほ」
「………………………キモっ」
「ああ~残念。お金はわたしが出すつもりだったけどな~」
「なっ……!?そ、それは卑怯だろ!!」
「あははははっ!!」
久しぶりの旅行だからか、唯花もずいぶんとウキウキしている様子だった。結局唯花にお金を出してもらった後、俺たちは周りの風景を堪能しながら自然と街を回り始める。
「あっ、見て見て、白。あそこにお土産屋さん!」
「そうだな。帰りになにか買っていくか」
「だね、わたしも友達に頼まれたし」
「えっ、お前友達いたのかよ」
「……おい」
「いや、冗談だって……!!そんなに噛みつきそうな目で見るなよ!ていうか……その」
「うん?」
しばらく間を置いて言うか言わないかを悩んだ後、俺は仕方なくため息をつきながら聞いてみる。
「……男なのか?その人」
「え?」
「だから、お前がお土産を渡す相手……男なのか?」
「………………ふう~~ん」
……あっ、やべっ。こいつの性格を考えたら言っちゃいけないことだった……!
「なになに、男だったらどうなるの?ねぇねぇ、男だったらどうなるの!?」
「ああ~~うるさいな。ちょっと気になっただけだから!お前、昔は男友達たくさんいたんだし……!」
「ええ~~あの頃の子たちとはもうほとんど連絡してないって前に言ってた気がするけどな~~まあ、確かに仕事上、男と会う機会が全くないわけじゃないけど~~くふふっ」
………この反応、絶対に女だな。もし男だったらこんなからかうようなそぶりを見せるわけがないし。まあ、答えを知ったのはいいけど……。
はあ……俺も、なんであんなこと言ってしまったんだろう。友達が女である確率がほぼ100%に近いと頭では分かっていたのに、また変に不安になってしまって………おかげで、こいつだけ得しているような状態じゃないか。
「そっか~~白は私に男友達がいるかいないかがそんなに気になるんだ~ふふふっ」
「……なんでそんなに喜ぶんだよ、お前」
「別にぃ?喜んでないけど?ぜ~~んぜんいつも通りだけど?」
「ウソつけ。さっきからずっとニヤニヤして……はあ」
でも、不安になるのも仕方ない。実際、唯花はそこら辺の芸能人に比較してもあまり劣らない見た目をしているのだ。
白に近い銀色の髪に、同じ色の瞳。肌も真っ白でツヤツヤで、どこか異国的でクールな雰囲気がありながらもいざ笑ったらめちゃくちゃフレンドリーにも見える、そんな印象で。
おまけに今日は花柄が添えられた白いワンピースまで着ているから、実際に今もけっこう人目を引いている状態だった。こいつのことが好きな男として、それが気にならないわけがない。
でも、唯花はそんな不安を全部かき消すように、急に真面目な声を発してきた。
「いないから」
「は?」
「親しい男なんていないから、安心してよ」
「…………………そうか」
「……逆に、そっちはどうなの?」
急に歩くのを止めて見上げてくるんだから、俺もつられて立ち止まってしまう。
そのまま振り返って目線を合わせると、唯花の目がだいぶ不安に滲んでいるのが見えた。
「会社で女の人と会う機会いっぱいあるんでしょ?私より」
「……………へぇ」
……もしかして、こいつも俺と同じことで心配しているんだろうか。
さっきまでさんざんいじり倒されたので、俺は仕返しのつもりでちょっとだけ意地悪な答えを返すことにした。
「あるな、女の人。チームの人たちみんなに渡すつもりだからな」
「なっ……!?な、何人いるのよ!」
「うちのチームじゃ3人くらいかな?けっこう女性職員多いからな~~うちの会社」
「っ…………!」
「ははっ、そうだ。お土産は今買っていこうぜ。明日も新幹線の時間があるんだし、ご飯食べてたら色々と忙しくなる、から…………」
わざと何気ない言葉を投げて足を踏み出したところで、急に服の裾を掴まれてしまう。
唯花は明らかに険しい顔になって、俺を見上げていた。
「………………な、なんだよ?」
「……………………別に?」
「だ、だったら放せよ。このままじゃ歩けないだろう?」
「……………………………」
「……ゆ、唯花さん?」
……なんか、雰囲気がヤバい。季節は暖かい春なのに、唯花の周りだけ吹雪が吹き荒れる冬になったようだ。
「……………お土産買うの、明日にしようか?」
「……そうだね。その方がいいかも」
「ははっ、はっ……わ、分かりましたぁ……」
「………ふん」
あからさまに不機嫌になった顔で、唯花がすっと俺の前を歩いていく。俺はその後姿を見ながら、片手で頭を抑えるしかなかった。
…………頼むから、そんな分かりやすく嫉妬するのはやめてくれよ、マジで。
もう我慢できなくなるだろうが。ただでさえ今夜は一緒に寝るのに、そんなあけすけな反応を見せたら……もう、我慢もなにもすべてぶちまけたくなるだろう。
本当、心臓に悪いやつめ……。
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