49話 重くて独占欲の強い女
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……我ながら重すぎると思う。
もう隠そうとしても隠しきれない。私の行動や些細な言動は完全に重い女のそれになっていた。もし白が他の女と気軽にボディタッチでもする場面を見てしまったら……その時は完全に、ヤンデレになる自信がある。
そう、ヤンデレになる自信。私がエロ小説で書いていたあの主人公みたいに、いざとなったら白を徹底的に調教して私しか目に入らないようにするしか………。
「……唯花さん?」
「はっ!あ……あ、なに?」
「め、目が怖くて……すっごく睨んでくるから、どうしたのかなって……」
「あ……大丈夫。別に怖くないからね?ふふふっ」
「ひいっ……!」
白はあからさまに怯えながら私を見ている。私は、にこにことした笑顔だけで返事の代わりをして、平常心を取り戻すために深呼吸をした。
雪が近くの穴場を教えてくれたおかげで、私たちは少しだけ電車に揺られてからイタリアンレストランに遅めの昼食を取った。その後にはまた雪に教えてもらったカフェのボックス席で、こうして白と向かい合っている。
「な、なんなんだよ、さっきから……お前、今日少し変だぞ?」
「……そうね、私は元々変な人なのかも」
「え?」
「ああ、ううん。大丈夫、大丈夫。うふふふっ」
「……………胃が痛くなってきた」
白は苦笑いを浮かべながらもチョコケーキをフォークで切った後、私に目配せしてくる。
その意味を察して、私は両手で頬杖をついている状態のまま、目をつぶった。
「あ~ん」
「……全く」
……うん、美味しい。甘くて美味しくてもう最高……!ふふっ、雪には今度お礼を言わなきゃ。別れ際に頑張れとか、意味不明の応援もされてしまったし。
いや、でも待って。私はそんな親友にまで嫉妬を感じていたわけ……?いくらなんでも懐が狭いというか、普通に人間として最悪な気がするけど。
ううぅ……でも、でも。
「うん?どうした?」
「……………なんでも」
……好きだもん。
大好きだもん。もちろん、こんな理由だけで私の嫌な行動がカバーできるなんて思わないけど……白が他の女に見られていると思ったら、どうしてもモヤモヤして。
ダメになる。一度離れ離れになった経験があるからか、白がまた私の目の前でいなくなるんじゃないかと思っただけでも怖くて、息が詰まりそうになる。私は完全に白に依存していて、これはもう理性でどうこうできるレベルの問題じゃなかった。
……そう、これは私の本能。
私という人間自体が、すごく重くて独占欲の強い女なのだ。
「……白」
「うん?」
「………ごめん」
「……………………は?急になんで?」
「いや、その………嫌だったんじゃない?ほら、雪と話している途中にも、ずっと手握ってたし。待ち合わせの時だって、意味不明なこといっぱい言っちゃったし……」
「ああ~~~なるほど。そういうことか」
なにがそんなにおかしいのか、白はブラックコーヒーを一口飲んだ後に嬉しそうに笑うだけだった。
「まあ、確かに今日はちょっと変だな~とは思ったけど」
「うぐっ……反論できない……」
「いや、でも嫌とは思わなかったし、それくらいなら別にいいんじゃないか?なんか……その、めっちゃくちゃ愛されてる感じがして、実はちょっと嬉しかったんだよ」
「…………………………………………」
「まあ、このレベルの嫉妬なら普通に可愛くしか見えないというか。あはは……」
………だから、許さないでよ。
なんで許すの、なんで受け入れるの?そんな風にとことん私を甘えたら、どんなことが起こるのか本当に分かってるの?
私でさえ怖いんだよ?これ以上あなたのことが好きになったら、これ以上あなたの何もかも欲しくなったらどんなことをしでかすか……私でさえ怖いのに。私の衝動であなたを傷つけるかもしれないと思っただけでも怖いのに、あなたは……!
「……嫌だったら、ちゃんと嫌って言ってね?」
「嫌って言ったらめちゃくちゃへこんじゃうくせに」
「くっ……!ひ、否定はできないけど、仕方ないじゃん!あんたに嫌な思いさせたくないし!」
「…………………………お前なぁ」
「うん?なに?」
「…………………………いや、なんでもない」
「ちょっ、なによ!早く言ってよ」
「……………恥ずかしくて言えるもんか」
……えっ?どういうこと?なんで呆れた顔をされてるわけ……?
わけが分からないまま目を丸くしていると、白は私の顔を何度か見て、目をそらしながら言ってくる。
「いや、その……さっきもめちゃくちゃ愛されてるのを実感して、嬉しくなったというか……俺のこと好きすぎだろ、お前」
「……………バカ、ヘンタイ」
「どうしてそれがヘンタイになるんだよ!ああ……もういい。この話はもう終わりだ!ったく、昔はもうちょっと清々しかったのに……」
「……変わったのはそっちじゃない、バカ」
私の許可もなしに勝手に格好良くなりやがって……うん、やっぱりこれからはジャケット着るの禁止にしよう。
そうだ、ヘアスプレーとワックス使うのも禁止。外に出る時は必ず私に検査を受けてから出ること。服も全部私が選んであげることにして、後は………。
「……なんかめっちゃ嫌な予感がするけど」
「ううん?そんなことないよ?まさか私を信じられないとは言わないよね?」
「ははっ、はっ……というか、このカフェ本当に雰囲気いいよな~~藍坂さん、よくこういうところ知ってるんだな!」
「………むっ」
「ちょっと他の女の名前が出ただけでも拗ねるのかよ……!」
「ぷははっ、冗談冗談。さすがにそこまで病んではいないし」
うん、ほんの半分しか怒ってないから。残りの半分はぜ~んぜん、笑ってごまかせるし!
「まあ、雪もけっこう長い間恋愛してたもんね。色んなところ行ってたって言うから、その分こんな店にも詳しいのかも」
「へぇ……そうか。ちなみに長い間って、どれくらい?」
「確か、8年くらい付き合ったって聞いたけど」
「へぇ……それは偶然だな。俺の友達の中でもちょうど8年くらい恋愛したヤツがいるんだよ」
「……………………」
「あ、ちなみに男」
「……なんか、私の扱い方覚えてきてない?」
「ぷふっ。20年も幼馴染やってたからだろ?」
……そう、20年も幼馴染やってたよね、私たち。
でも、白……?今の私は昔の私とは違うよ?もう、なんか色々と我慢できなくなってるからね?昔よりずっと重くなって、ずっとめんどくさくなって……あなたを色々と困らせるかもしれない、そんな女になったんだよ?
「………………」
「……うん?唯花?」
………………ああ、ダメだ。また変なモードに入っちゃいそうになる。挙動不審になっているのを自覚しながらも、私は俯くことで心の平静を取り戻そうとする。
そうやってせいいっぱい自制を効かせている最中に、ふと頭の中で何かがひらめいた。
そう、今日のデートの目的。白にちゃんと恋人になってくださいって告白させることだったったのに、いつの間にか忘れてた……!
「どうしたんだ?急に俯いて」
「…………………………えっとね、白」
「うん」
「あ、あの……えっと」
……でも、どんな方法で告白させればいいの?分かんない、そんなの分かんないよ。
本当にサラッと、それとなく誘導して告白させたいんだけど、そんなに上手く言い回しができたら20年も片思いしてないもん……!
「……どうした、唯花。また変になったぞ」
「あ………い、いや!その……」
「その?」
「こ、このケーキ美味しいな~って思ってただけ………えへへっ」
「…………………………絶対に違うだろ」
「あ、あんたね!ちょっと彼女の言うことを信じなさい……って、ち、違う!彼女じゃなくて。彼女じゃなくて!!!」
「……………えっ。い、今……」
「~~~~~!?!?」
あああ……!?!?ば、バカバカバカバカ!!漏れちゃったじゃん!彼女漏れちゃったじゃん!!なんでぇ……!なんで急に彼女って口走るのよ、私のバカぁああ!!
「……ゆ、唯花?」
「うぅぅ……ううううぅ……」
「………………」
「うぅ……見ないで。見るなぁ……私のバカぁ……」
「……ぷはっ」
「……ちょっとぉ!なんで笑うのよ!!」
「いや、だって……!あはっ、ああ~~お前ってやつは……」
本当仕方ないと言わんばかりの顔をして、白はこんこんと机をノックしてきた。
顔を真っ赤にしたまま目を合わせたら、白は余裕がある態度でサラッと言ってくる。
「もう出ようか。コーヒーも全部飲んじゃったし、軽くショッピングでもしよう」
「うぅ……見るなぁ………」
「……唯花、お願いだから顔を上げてくれよ。ずっとそんな調子だとこっちも……色々と調子狂うんだよ」
「うるさい、うるさいぃ………」
バカ……ずるい。ずるいぃ……なんで、なんで私はいつもこんななの。
ああ、もう恥ずかしくて顔上げられないよぉ……。
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