48話 分かりやすい嫉妬
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……ヤバい、唯花と目が合わせられない。
大体、あんな可愛い格好して心臓に悪いことばかり言う方が悪いのだ。家ではいつもジャージかラフな格好してるくせに、急に女の子らしい姿で独占欲ただ漏れな言葉を投げかけてくると、こっちだって困る。
「ふぅ…………」
チケットを買うために列に並んではいるものの、俺の意識は既に前に立っている唯花に注がれていた。唯花も俺と同様にうなじまで赤くなっているのが見えて、またもや羞恥心が湧き上がってくる。
結局、ぼうっとしている唯花をほったらかしにするわけにもいかないから一緒に列に並んだけれど、ぶっちゃけイラストに集中できる自信がなかった。まあ、こういう展示会に来るのが初めてだからかもしれないけど。
でも、その心配は会場に入った途端にかき消されてしまった。
「うわぁ……クォリティー高っ……」
「だよな……」
小声で感想を呟きながら、俺たちは次々と展示されているイラストに目を向けていく。唯花の言う通り、イラストのクォリティーは想像した以上に高かった。単なる美少女が描かれている可愛いイラスト揃いだと思いきや、それぞれの絵に確かなテーマ性があって、背景の塗りや具体性も凄まじい。
正直、ここまでとは予想していなかった。
「……………わぁ……」
特に白雪、というイラストレーターさんの展示物の前では何分も立ち止まってしまった。
絵の上部には真っ白な雪国が広がっているのに、下は真っ暗な時計がいくつもあり、少女たちが真ん中に立って対を成している。唯花も心底驚いたように、口をポカンと開いてその絵を見ていた。確かこの人、俺もSNSとかで何度も見た気がするけど……。
……………あ、そういえばこの白雪ってイラストレーターさん、確か唯花の作品を担当した人じゃないか?絵柄も似ていてどっかで見たような気がしたけど、そっか。こいつの作品で見てたのか……!!うわぁ……やっぱ神だろ、この人。
そんな風に驚きながらも1時間くらいかけてイラストを全部見終えてから、俺たちは会場の外に出て感想をつぶやき始める。
「やばっ……思ってた以上にクォリティーめっちゃ高かった」
「だよな……って、お前も来たことないのかよ」
「そうだよ?今回は私も友だちが参加するからといって来ただけだから……ていうか、あの子のイラストがヤバすぎてちょっとびっくりしてる。普通に神だった」
「……もしかして、白雪さん?」
「えええっ!?し、知ってたの!?」
「知ってたもなにも、お前の作品のイラストレーターさんだろ?そりゃペンネームくらいは覚えるって」
目を真ん丸にして驚く唯花にちょっと呆れ気味に言うと、唯花も間もなくそうだよねと苦笑しながら頷く。でも、唯花の言う通り本当に絵が綺麗だったよな……正に神絵師だった。
会場の出口を見ながらそんなことを思っていると、ふと後ろから耳慣れない声が響く。
「あっ、唯花?」
「……え?」
とっさに振り向くと、金髪碧眼の女の人と目が合った。超が付くほどの異質的で綺麗な人がいるんだから、自然と目が見開かれる。
というか、待って。この人、確か唯花の名前を……!?
「あっ、雪!サイン会もう終わったの?」
「ああ、うんうん。ちょうどさっき終わったところ。こちらの方は……えっと、確か桑上さん……ですよね?」
「あ、はい!桑上奈白と言いますが……えっと、もしかして」
「あ、やっぱり!!私、藍坂雪と申します!ちなみに、この子のラノベの挿絵を担当している、白雪というペンネームで活動しています」
「ええっ!?!?」
さすがに驚くしかなかった。ウソだろ、こんなところで神絵師さんと鉢合わせるとか。それも、何年も唯花のイラストを担当していた人と会うなんて……!
「……あ、ちょっと注目されてますね。ごめんなさい、付いてきてもらえますか?」
「あ、はい!」
「…………………」
「えっ?」
つられるように藍坂さんの後ろをついていこうとしたら、何故か唯花にぎゅって手を握られる。
振り返ると、何故がすっごい目つきで睨まれていて、俺は首を傾げるしかなかった。
「……どうした?」
「……ううん、なんでも?」
藍坂さんに従って再び会場の中に入って静かな隅のところまで来ると、藍坂さんはもう一度ぺこりと挨拶をしてきた。
「改めまして、藍坂雪です!本当に桑上さんですよね!?」
「あ、はい。桑上奈白です……えっと、どうして俺のことを知っているんですか?」
「それは………ふふっ、そこにいる相棒によく聞きましたから」
まだ俺の手を握っている唯花に目を移すと、また睨まれてしまう。なんでだ、俺はなにもしてないのに。
一方、藍坂さんはクスクス笑いながら俺たちを見守るだけだった。
「会えて嬉しいです!私、桑上さんと一度話してみたかったんですよ!」
「あ、それは俺も!いやぁ、素敵なイラスト本当にありがとうございます。おさ結婚の時からずっとファンでした!」
「ええっ!?ずっと昔から見てくれたじゃないですか!こちらこそありがとうございます。そうですね、私が商業デビューした作品がちょうどおさ結婚でしたから……いや~あの頃の唯花はもう本当に初々しくて可愛かったのにな~」
「えっ、もしよければその時の話をもっと詳しく………げっ!?」
藍坂さんとそうやって和気あいあいに話を繰り広げていたところで、急にまた手を握られてしまう。いや、手はずっと繋がれていたけど、唯花が急に半端ない力を入れてきた。
反射的に唯花を見ても、唯花はニコニコと笑っているだけ。でも、繋いでいる手には段々と力が加わって行って、俺は藍坂さんと話することもできずに必死にその手から逃れようとした。
「ううん~~?どうしたの、白?そんなに手首をよじって。私と手つなぎたくないわけ~?」
「い、いや……そんなわけじゃなくて……!」
そしてなにがそんなにおかしいのか、藍坂さんはこの光景を見て腹を抱えて笑いだしていた。
「ぷふ、ぷふふっ、ぷはははっ!!!」
「………なに、雪。なにがそんなにおかしいわけ?」
「いや、だって……!あははははっ!!」
「ゆ、唯花さん……?一旦手を離してもらえませんか……?」
「ううん?や~だ。なんで手離さなきゃいけないのかな?ふふっ」
「ちょっ……あ、藍坂さん。こ、これはそういうのじゃなくて……!」
「あはっ、あはっ、あははははっ!!!ああ……お腹痛い……!」
「ちょっ、唯花ぁ……!!」
「………………ふん」
……なんでだ!!なんでそっちが拗ねるんだよ!!文句を言うならリアルタイムで手を絞められているこっちなのに!!
結局、俺はその後に何分も手を握り締められていた。
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