75話  死ぬまでずっと離さないから

夏目なつめ 唯花ゆいか



私の彼氏は、私にいつも遠慮をする。


もちろん、それは白の優しさから漏れ出てくるものだった。でも、唯一白が私に遠慮をしない時があるとするなら……それは、エッチをする時だった。



「やらぁ……もう止めて。お願い………ゆるひて………」



朝に精いっぱい誘惑したあげくに、家に着いた途端に襲われてしまって……その後にはもう、めちゃくちゃにされるしかなくて。


それでも、私は喜びを感じてしまう女で。好きな人に抱かれていると思っているだけでも胸が高まって、やめてと口では言ってるけど実はもっと求めて欲しくて……口で言っていることと体でしていることが完全に違う、そんな女になっていた。


私は攻められるばかりで、小説で書いてたように白をモノにすることはもうできないけど。


私は、自ら私のモノになってくれるこの男がもうたまらなく好きになっている。



「ううぅ……腰痛い。責任取れ」

「いや、それはお前が煽ったせいだろ……」



エッチをして、二人で一緒にお風呂に入った後にシーツを交換して、ちょっと早めの夕飯も食べた後。


私は相変わらず白のベッドに寝ころびながら、ベッドを背にしてゲームをやっている彼氏さんの首筋に顔を埋めている。



「……というか、唯花。一つだけ聞きたいことがあるんだけど」

「うん、なに?」

「……お母さんとなに話してたの?」



コントローラーを操作しながら、白はあくまで平然とした声で聞いてくる。私はまた、急に芽生えたいたずら心に従って意地悪をしてみる。



「ううん?教えな~い」

「……子供かよ」

「教えて欲しかったらちゃんと対価を支払って欲しいな~幼馴染なんだし、それくらい分かるでしょ?」

「………もう唇カサカサだけど?」

「だから地道にリップちゃんと塗ろって言ったじゃん。仕方ないな~」

「えっ、ちょっ……!ん、んん……」

「んちゅっ、んむぅ……」



と言いつつも、私は座っている白の顔を上に向けさせてから、覆いかぶさるようにキスをする。白の言う通り唇は普段よりカサカサで、あまり触感がいいとは言えないものだった。


でも、確かに熱くて。白の匂いがいっぱい立ち込んで、それだけでも幸せになる。



「はい、ごちそうさまでした」

「人の唇を食べるな~それで、もう言ってくれるんだろ?」

「うん~~そうね。おばさんにあなたのこと頼まれたの、よろしくってね」

「……頼まれたって、まさか」

「私もこれからも一緒にいられるように努力するって、おばさんに言った」



白は少しだけぼうっとしたと思ったら、すぐに顔を染めてパパっとゲーム画面に視線を戻す。私は、その可愛らしい反応がさらに愛おしくなって、もっと抱きつく。



「逆に、そっちはどうなの?昨日、夕飯食べる前にお父さんに色々と言われてたよね?」

「酒飲んでいる時に言われたことと大して変わらないから、安心していいぞ」

「…………そっか」



昨日のお父さんを思い返したら、嬉しさよりも恥ずかしさの方が先走る。なにせ、50を過ぎた男が半泣きになりながら私の可愛さについて延々と語っていたから。


まあ、最後はちゃんと諦めてくれたらしいけど……ううっ、その話を聞いていた白の顔を思い出すと、鼠の穴にでも潜りたくなる。



「ぱはっ、そうだ。昨日めっちゃくちゃ感じたんだよな~亮さん、本当にお前のこと愛してるって感じがしたんだよ」

「なんでそんな恥ずかしいことを蒸し返すのかな……!お、お父さんの話はもう終わり!」

「まあまあ、いいだろ?ちゃんと許可取ってもらえたんだし」

「それは、そうだけど………」



……そう、私たちは許可を得た。お母さんは元から私たちをくっつける気だったし、静華おばさんにもお父さんにもちゃんと……交際と、その先の段階に進むことへの許可が下りたのだ。


ならば、自然と次のステージが頭の中に浮かび上がってくる。結婚という名のステージが……どうしても浮かんでしまう。


まだ付き合って半年も経ってないのに、私だけ急かしすぎているのかな。でも、私は……したいもん。


結婚、ずっと昔から願ってきた、大好きなあなたとの結婚……ねぇ、どうなの?白。


あなたは私と結婚、したい?



「よし、週間ボスは終わりっと……ていうか、なんでまた何も話さないんだ、唯花?」

「……別に」

「……絶対に変なこと思ってただろ。お前、時々一人の世界に飛んで行っちゃうからな」

「へ、変なことじゃないもん!もっと現実的な話だもん……」

「ふうん………」



白は急にキャラの操作を止めたと思ったら、とんでもない爆弾を投げかけてくる。



「もしかして、結婚………とか?」

「……………………っ!?!?」



……な、なんで!?なんで当ててくるの?そんなに分かりやすかった?いや、エスパー!?こんな状況でどうして……!



「ぷはっ、やっぱ当たりか」

「な、なによ……こっち見んな!!」

「お前はさ、重いことを考えていると大体口数がなくなるんだよ。ちょうどさっきのように」

「…………………こんの」



しれっと後ろを向いてくるんだから、私は両手を白の頬に添えて無理やりモニターを見るようにその顔を引き戻す。


でも、今度はまたこちらを仰いでくるんだから、私は悔しさに唇を噛みしめながらもじっと白の顔を見据えた。



「……ねぇ、白」

「うん」

「……私と結婚、したい?」

「…………………前にも言っただろ?知っていることをわざわざ聞くなよ」

「……言葉にしてよ。私、言葉がないと不安だから」

「………」



白は急にゲームを終了したと思ったら、コントローラーを置いてベッドに上がってくる。そのまま、私の頬に片手を添えながら、伝えてきた。



「結婚……したいよ、もちろん」

「…………………」

「……責任取れよ、お前。俺、もうお前以外の人と結婚なんて考えられない人間になっちゃったんだぞ?」

「………………………あはっ」



当たり前のように、私は白に抱きつく。当たり前のように、白は私を受け止めながらベッドの上で横になって、ポンポンと私の背中を叩いてくる。


私は彼氏の………いや、未来の旦那様の胸元に顔を埋めながら呟く。



「……これ、プロポーズじゃないよね?」

「そ、それは当たり前だろ……結婚指輪もないんだし、さすがにプロポーズくらいはシャキッと決めたいというか」

「ええ~~いいじゃん、私たちらしくて。なんなら、今すぐ結婚指輪買いに行く?」

「もう店閉まる時間だろ!?後でちゃんと、自分で選んで渡すから……」

「あははっ、それもいいな~~」



白が私に指輪を渡してくる場面を想像するだけでも幸せになって、喜びがあふれていく。


その喜びをすべて表情にして、私は大好きな旦那様の頬に再び両手を添えてから、言う。



「私、子供は二人くらい欲しいな~4人家族だとちょうどいいじゃない?」

「いや、子供を持つのはもっと安定したからでいいだろ!ちゃんと計画立たなきゃだから、今は我慢しろ!」

「や~~~だ~~コンドームいや!いい、白!?あんな薄い膜なんかでエッチの本質が丸ごと消されるんだよ!?これ本当大事件だからね!?!?」

「ちょっ……暴れるな!!そもそも結婚も今すぐは無理だろ!現実的なお金もそうだけど、ちゃんと計画を立てて……!」

「本当生真面目なんだから……!分かった、それは私がやっとく!」

「……は?なにを?」

「外で仕事しているあなたよりも、家で仕事する私の方がどうしても時間が余っちゃうでしょ?さっそく式場から調べて行くからね?」



至近距離でその願望を語られて、白は少しだけ呆れが滲んだ嬉し顔でぷふっと笑った。



「本当、どんだけ俺と結婚したいんだよ……お前は」

「だって、昔からず~~~っと思ってきたことだし。ふふふっ。楽しみ~~」

「ああ……もう」



少しだけの静寂が流れ、やがて離れている距離を無くすように唇が重なる。


白は私の後ろ頭に手を回して大切に抱えて来て、私は白に体を擦りつけながら精いっぱい甘える。


これが、きっと私たちの本質で、私たちの関係だ。白は私を包んで、私はいつまでも白に甘えながら、幸せを噛みしめる。


そんな関係を永遠と続けていけるように、頑張らなければ。


いやらしくない誓いのキスが終わった後、私は湧き上がる気持ちを堪えずに言ってしまった。



「これからもよろしくお願いしますね?旦那様~~?」

「………はあ、全く。こちらこそ…………よ、よろしく」

「ぷふふっ」



私の幼馴染は、私の大好きな彼氏になって、かけがえのない未来の夫になって行く。


ありがとう、白。私に素敵な愛を送ってくれて、私を受け止めてくれて……。



「死ぬまでず~~っと離さないんだから、覚悟してよね?ふふっ」



<了>


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