67話 少しだけの不安
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「…………………………………あのさ」
うへへっ、白ちゅきぃ…ちゅきちゅきちゅき大しゅき……ひひひっ。
幸せ、幸せぇ……こんなに上手く行っちゃってもいいのかな?ちょっと怖いくらいなんだけど。
両手で頬を包んでニヤニヤしていると、前から雪の辛らつな声が飛んでくる。
「………………うざっ」
「えっ、なにが?」
「顔でイチャついているのマジできつい。無理」
「ええ~~別にそんなんじゃ……」
「本人に自覚ないんだから余計に悪質だよね~」
「……そ、そんなにヤバい表情してた?」
「してた。エッチの話始めたらもう喧嘩売られてると勘違いしちゃうレベルでヤバかったから」
……ほ、本当に?私なりに取り繕ったつもりなのに……!
「こほん、それは……その、白が悪いと思う。私は悪くない」
「ほぉ、その理由は?」
「……………あ、あいつが格好良すぎるのが悪い」
「はいっ、今すぐ出て行け~~」
「えっ!?ちょっ、玄関まで引っ張らないでよ!悪かった、悪かったからぁああ!許して、許してください白雪先生!!美味しいケーキちゃんと奢りますからぁああ!!」
「うるさい!!あんたと食べてたら胃もたれして入ったケーキも全部吐いちゃいそうだからね!?お断りよ、そんな拷問!はあ!?なんですって?私の彼氏が格好良すぎるのが悪い!?どっかの少女漫画!?アニメ!?現実であれ言って恥ずかしくもないわけ!?」
……だって、だって本当のことだもん!私をここまで惚れさせた白が悪いもん!私は悪くないもん!
と言ったら今度こそ間違いなく追い出されるから、私はただただ必死に許しを請うしかなかった。でも、これは本当に白が悪いのに……!
ちょっとは、そう。ちょっとは私にも責任があるかもしれないけど!
「あんた、罰。10分間ひざまずいて話しろ」
「ううっ……分かりましたぁ……」
「うっざ……ふぅ」
本当に呆れたように雪は頭を抱えながら、聞いてきた。
「……んで、自分の性癖が変わっちゃったと」
「はい、そうです」
「それで、恋愛の主導権を取り返したいと?」
「……………うん」
話題があまりにもバかけているのは重々承知だけど、これは元をたどれば雪が悪い。最近はどうなのかとか、エッチは何回したのかとか細かく聞いてくるから口が勝手に動いちゃったし。
でも、主導権を取り返したいという思いは本物だった。私は実際、白に色々とされるがままになっていると思う。目隠しで手錠という極端な手段を取っても、最後には白に溶かされて飛んでしまっていた。
むしろ、白に迫られて乱暴にされるのが気持ちよすぎて途中からは抵抗もしてなかった。白みたいに拘束を解けようともしなかったし、最後に手錠を外してとお願いしたのは抱きしめながらのエッチがしたかっただけで………私が思う理想とは少しかけ離れている。
私は、白に奪われっぱなしのエッチの主導権を握りたい。でも、これが他人に相談するには恥ずかしい話題だということを私もちゃんと分かっていて……。
………実際、私は一番の親友と言ってもいい雪もその話を聞いて呆れていた。
「………逆に聞くけど、どうしてそんなに主導権を握りたいわけ?普通に桑上さんに色々としてもらえばいいでしょ?あんたマグロではないだろうし、ただただ愛し合えばいいじゃん」
「だって、その方が安心できるんだもん」
「うん?安心って?」
「……白が大切すぎるからこそ、どんどん白に一方的に縛られていくみたいっていうか。いつまでもされるがままになってちゃ不安だし……」
「……………………………………へぇ」
説明が上手くできたのかは分からないけど、すべて本音だった。不安と言ってもまだ小さな種くらいの大きさだけど、とにかく不安は不安だから。
私は、白を逃したくない。白がいなくなったら私はたぶん、死ぬ。自殺とかそういうわけじゃなくて、たぶん私の人生は白がいなくなったその時間をずっと空回り続ける。
何もできないで、新しい恋を探す気にもならないで、ただただ生きていくことになる。白は私にとってそれほどの存在で、私自身よりも大切な人だ。
だから、色々と満足させてあげたいし、たまには主導権を握って白がちゃんと私のモノだっていう実感が欲しい。エッチをする時も愛されているという実感は湧くけど、どうしても物足りない部分はあるから……ほんの些細なことだけど。
「それだけどね、唯花」
「あ、うん」
「恋愛で主導権なんか、気にしない方がいいよ」
「えっ?」
そんな複雑な頭の中を覗いたかのように言ってくるから、私はつい目を見開いてしまう。
雪はいつにもまして真剣なまなざしで、私を見据えていた。
「……前に私が秀斗にやってたヤツだから、あれ」
「えっ………?秀斗って、松下さんのこと?」
「そう。私もなんか、あいつに劣等感あったんだよね。昔からめっちゃくちゃ周りに信用されるタイプだし、勉強もできて顔もいいし。あいつができすぎてるから、私は私なりにけっこう悩んでたのよ。それで、主導権とかに執着始めたんだよね」
「へぇ、そうなんだ……」
「………言っちゃ恥ずかしいけど、エッチの時にすごく責めたり、あいつのこと縛ってたりして……そんな真似で自分の独占欲満たそうとしてた」
「えっ!?雪も目隠しとか使ってたの!?」
ウソ!?私以外にそんなの使う人……はもちろんたくさんいるはずだけど!でも、まさか雪が!?!?
「あ、あの時はマンネリ来た時期だったのよ!!それに、そもそもあなたの小説読んだからSMプレイ目覚めたんだからね!?これはあんたの責任もあるから!!」
「小説って、まさか…………」
「…………………そう、昔に書いたあのエロいヤツ」
…………うわぁぁああ、知らなかったぁ。それは知らなかった……!雪が、私のエロ小説に焚きつけられたなんて……!
「……こほん。とにかく、エッチの話をしたいわけじゃなくて……なんかさ、恋愛の主導権に拘る気持ちも分かるけど、マジで気にしない方がいいから。そもそも健康的な恋愛って、お互いを尊重するところから生まれるのよ。ちゃんと対等で、お互いがお互いのために譲り合おうとして……まあ、それができなくて私はフラれちゃったんだけど」
「……………雪」
「まあ、これもあくまで相手によるものだけど、桑上さんなら大丈夫だと思うな。単にあなたが桑上さんをまだ全部信じれていないからじゃない?」
「っ……!そ、そんなわけでは!!」
「桑上さん、いかにも周りからモテるタイプに見えたけど?あんたが桑上さんのこと好きすぎるから余計に不安になるのでは?」
「うっ………」
それは間違いなく図星で、何も言い返せなかった。実際、私の嫉妬と愛の深さはもう普通を超えていると思う。白の周りに女の人が通るだけでも嫌になるし、話しているところを見てたらもっと機嫌が悪くなる。
その反面、白は私並みには嫉妬してくれないから………だからかな。
「そういうものは大体、会話と時間が解決してくれるから。ちゃんと腹を割ってお話してね?重ねて言うけど、私もそんな話ができなくて別れたんだから」
「……わかった。アドバイスありがとう」
「うん、役に立てたのならよし」
「あ、そういえば……松下さんとはどうなの?連絡取ってる?」
「あ~~それは………」
雪は若干間を置いたと思ったら、すぐに頬を染めて照れくさそうに視線を下げて、テーブルをジッと見つめ始める。
私としては初めて見る、親友の乙女チックな顔だった。
「……まあ、たまによ。たまに………たまに、話しているだけだから」
……いや、たまに話している顔じゃないでしょそれ……。
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