55話 なんか似てない?
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「……………よし」
高校の時に初めて作った激辛カレー、派手に失敗した肉じゃが。ネギと野菜を焦がしてしまったチャーハン……今までどれだけ苦汁をなめてきたか。
でも、もう大丈夫!この料理で私は生まれ変わるんだから!!
『生姜焼きいいよ?肉だけ炒めればいいし、野菜もキャベツで済むし。ほら、私が見せてあげる』
『おお……!』
今日のお昼ごろに雪の家に行って直接教わった必殺技、生姜焼き!作るのもすごく簡単そうに見えたから、今日こそ失敗する確率はゼロ!
……と言いたいところだけど、今まで簡単な料理を何度も失敗してきた私としては安心していられない。私はエプロンをして、ダイニングのテーブルに置いてある具材を見ながら息を整えた。
「……よし」
白と付き合い始め、これからも一緒に住むことがほぼ確定になった今。
私はいつにも増して料理動画をあさったりレシピを見たりして、料理に対する意欲を燃やしていた。理由はもちろん、白に美味しい料理を食べさせてあげたいから。そして……。
『それにしても花嫁修業をお母さんじゃなくて私に受けるなんて……本当に大丈夫なの?』
『は、花嫁修業なんて!!別にそんなんじゃ……!』
『ふうん、違うの?』
『っ………ち、違わないけど………』
そう、花嫁修業の一環として、やらなければならないのだ。
ううっ、雪の言葉が脳に染みる……花嫁修業なんて。でも、あながち間違いでもないよね?私はとにかく白以外の男と付き合う気はないし、それは白だって……たぶん、私と同じだろうし。
そうすれば自然と何年も一緒に暮らしていくことになるし?いつかは白にプロポーズされて幸せな結婚式とかあげて、子供も産んで幸せな家庭を作っていつまでも白と一緒に………きゃああああああ!!
きゃああああ!!バカぁああ!!バカバカバカバカ………ああ、幸せぇ……うへへっ。幸せぇ………。
「へへっ、うへへへへっ………あ、こほん。うん……」
……とにかく、そのためにはちゃんと料理スキルを身につけなければ。
私は家に来る前に買ってきた食材たちをもう一度見下ろしてから、料理トレーの中に薄力粉を注いだ。
「よし……キャベツを切るのは後にして、先ずは豚ロースを薄力粉にまぶして……」
料理の基本はとにかく下ごしらえ。今日はお肉を焼く前に軽く粉をまぶして、予めタレを作ってキャベツを切る予定だった。純粋にお肉を焼くことだけに集中できるように、最大限ポッカポカな状態で白が食べられるように。
レシピ動画と雪の教え通り、タレに生姜と醬油、砂糖、料理酒を入れてよく混ぜて、キャベツを千切りにして……よし!
「……行くぞ」
集中していたら、いつの間にか白が帰ってくる時間になった。さすがにこれ以上の失敗は許されない……どりゃっ!
予めごま油をひいておいたフライパンに、肉を投下!こんがりと焼き色が付くまで焼いて、その後にタレを……タレを!
よし、ちょうど今!
「ただいま~あれ、唯花?」
「きゃあああ!?!?」
「うわああっ!?!?ど、どうしたんだよ!?」
「あ、あ、いや……なんでもない!」
あ、慌てずに!慌てずに、慌てずに!まだ焦げてない!今ちょうどタレを入れて、中火でよく味を染みこませたら………………よし、完成!
「…………うわぁ」
「な、なに?」
「いや、美味しそうだなって……あ、着替えてくるわ」
「うん、行ってらっしゃい」
白が自分の部屋に言ってる間に、私はフライパンから肉を取り出して皿に乗せてみる。大丈夫、どこにも焦げてはいないし美味しそうな茶色だし、たぶん大丈夫なはず……だよね?
……これ失敗したら私、マジで腹を切るからね?美味しくなくても美味しくなるのよ?生姜焼き君?
パックご飯二つを電子レンジに入れて、キャベツまで盛り付けたら……うん、よっし。
ううっ……お願いします、料理の神様。今日だけは上手く行きますように!
「お待たせ……ってなに祈ってんだよ。それも手まで合わせて」
「……今度も失敗したら再起不能になるかも」
「大丈夫だって!ほら、座ろう?」
そうやって白と向かい合って座り、いただきますの挨拶をして、新刊の発売日のような緊張感を抱きながら。
自作の生姜焼きを、頬張ってみると――――
「おっ、美味しい!ちゃんと美味しいじゃないか!やったな、唯花!」
「………え?」
「これめっちゃ美味しいぞ。いや、頑張ったな。味付けもしっかりできてるし、これ本当ご飯が進むわ」
「………………」
パッと見開いた目に、弾んだ声。どう見ても嬉しそうにしか見えない白の顔。
その反応が夢みたいで、もう一度肉をかじってみる。でも、美味しい。そう、美味しい……!私が作った料理が、美味しい!!
その現実を受け入れた瞬間、急に目尻から涙が出て来た。
「ううっ、うえっ、うわああ……よかったぁ、よかった……よかったぁ……!」
「ちょっ、なんで泣いてんだよ!めでたいことだろ!?」
「うええぇ……よかった、よかった……」
「どんだけ必死だったんだ……マジで美味しいから、もう泣かなくてもいいぞ」
「うん、うん……よかったぁ………」
「ああ……本当涙もろいな」
白は仕方ないと言わんばかりの顔をしていたけど、ちゃんと美味しいと何度も言いながらおかわりまで食べてくれた。
初めて料理を成功した私は感激の涙を流しながら、自分が作ったものを綺麗に平らげた。それから洗い物も終えて迎えた、普段のティータイム。
私はダイニングで白の真横にまで椅子を引いた後、白の肩に頭を乗せて思いっきり甘え始めた。
「うひひっ、しろぉ~」
「テンションヤバいな……お酒でも入ったようなテンション」
「だって嬉しいんだもん~~これからもい~~っぱい期待してよね?私の料理!」
「ぷはっ、はいはい。期待させてもらいます」
「むむむ……はいは一回!」
「はいはい」
からかうように言ってきた白の頬を人差し指でぐりぐりしても、白の笑顔は消えない。非常に不本意だけど、今回だけは許すことにして……私はまた白に体を寄せた。
「お疲れ様、本当美味しかったわ。レシピは動画で覚えたのか?」
「うん、それもあるけど、最近雪に料理教わってるんだよね」
「えっ、藍坂さんに?あの人、近くに住んでるのか?」
「うん。ここから電車で20分もかからないよ?そこで料理のコツとか教わって、ちゃんと実力発揮できたってこと」
「へぇ、なるほど……近くに住んでるのか、藍坂さん」
「………おい」
「ああ~~そんなんじゃないって!そもそも、他の女の人はその………あまり、目に入らないし」
「………しろぉぉ~~~!!!」
「ちょっ、抱き着くな!ああ、もう。子供かよ、お前………」
「いひひひっ、へへっ」
白の言う通り子供のように抱きついたら、白は私の頭を何度も撫でながらぎゅっと抱きしめてくる。好きな人の体温はいつだって、私を安心させて幸せな気分を伝えてくれる。
体を離すと、白はなにかひらめいたようにそうだ、と言いながら私を見て来た。
「そういえば、唯花。聞きたいことがあるけど」
「うん、なに?」
「お前の友達の中で今フリーな人いるか?あ、もちろん俺じゃなくて!昨日、会社の同期のヤツと一緒に飲みに行ってな?その時に、あいつが彼女欲しいって色々と言ってきたんだよ」
「……それって、前にも言った
「そうそう、松下秀斗。あいつ、元カノと別れて2年くらい経つんだけどまだ引きずっているみたいでさ。早く新しい恋探して忘れたいらしい」
「なるほど………失恋を引きずっているのか~ふうん」
……あれ?なんか状況が雪と似てない?雪もちょうど2年くらい前に別れて、未だに引きずっているけど。
はっ、そうだ!雪がいるじゃない!雪もちょうど恋愛したいと言ってたし、これはいいチャンスかも!
「それなら、心当たりのある人がいるけど……あ、ちなみに松下さん、オタクじゃないよね?オタクじゃなかったらちょっと紹介しづらいかも」
「確かガチではないけど、アニメや漫画は普通にたしなむ方だぞ。ていうか、その反応……もしかして」
「そうそう、雪に会わせたらどうかな!?雪もちょうど彼氏探してるんだよ!」
「へぇ……まあ、いいだろう。そうしようか」
そんな風に軽いノリで、お互いを紹介することになったけど……この時の私たちは、まだなにも知らなかった。
こんな軽々しいノリで決められた決定事項が、この後どんな事件を引き起こすのかを……
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