第72話 宇宙の神秘
俺が一つ、俺が二つ、俺が四つ、俺が……――
お家デートか……手料理を食べながらのんびり会話をして絆を深める事が出来るね……。
スカイダイビングか……パラシュートも無しに空に飛び出すのはちょっと怖いが……有翼人と繋がっているので安全だし、彼女のその背中にある翼で滑空をする事で長時間空の旅を楽しめる。
ファンタジー世界を模したゲームか……彼女が回復役で俺が前衛だな、共に魔物と戦う事で信頼感が増すというものだ。
ウインドウショッピングか……一番多めな要望がこれなんだよな、ここで彼女達の為に選んで買ってあげたデータは、実物を後に届ける仕様だ……。
他にも……俺が128、俺が256……。
……。
……。
――
パチリと目を覚ました俺、薄暗くて周りが良く見えず……ここは……。
重力を感じる方向的に俺は立って居る体勢だと思うのだが、足が地上に着いている訳では無い……体がフワフワと浮いている様な何か頼りない感じが……。
ふと目の前に光が射しこむ。
光が大きくなる様につれて目の前の景色が確認でき、そこは……。
……ああ、治療ポッドの中か……。
特殊な液の中で浮かびながらポッドの中に居る事を思い出した。
何かの音が聞こえるとポッドの中の溶液が排出され、俺の足がポッドの底部に着く。
そして円筒形の縦型のポッドの壁が上に向かってせり上がると、目の前には俺を覗き込む様な体勢のクレアが居た。
「お帰りシマ君」
「ああ、ただいまクレア」
俺はポッドの有る場所から移動をしつつ、いつもの挨拶をクレアと交わす。
俺が外に出た事で、すでに液体の排出の終わった円筒形の治療ポッドの壁が元の位置に降りていた。
あの液体ってすごくお値段が高いらしいのよな……丁度良い浮力はフカフカのベッド処じゃなくて……たぶん母親のお腹の中に居る感じというか……いや、そんなん覚えてないけどさ。
「ふぅ……」
いつもの事だが、これが終わった後は少し脳が疲れている。
「お疲れ様だよシマ君、今日はいつもより大変だった?」
クレアが少しだけ心配そうに声をかけて来た。
俺は、問題無い事を示すべく、姿勢を正してクレアに向き合い。
「いや、沢山の美人や美少女とデートが出来るんだぜ? 大変な訳ないさ、まぁ今日はちょっと数が多かっただけだな」
そう言ってクレアを安心させてあげる事にした。
今日はいつもの様に思考分割をしながら、仮想空間内でブレインユニット達とデートをしていた。
思考分割も慣れた物だったので、さらに倍を試してみたから……ちょこっと疲れただけだ。
二分割や四分割程度なら自室のベッドの上で寝転んでやってもいいんだが、思考分割の数が多い時は治療用ポッドの中でやる事にしているんだよね。
「無理しなくていいんだよシマ君? 皆も現状で満足……はしてないかもだけど……シマ君の健康の方が大事だと思っているんだからね?」
俺が少しだけ疲れた様子を見せてしまった事で、俺の事を上目遣いで見る形のクレアは少しだけ心配そうで、そしてチラチラと視線が俺の腰と顔を行ったり来たり……あ……。
「取り敢えず服をお願い、クレア」
「あ、うん」
素っ裸なの忘れてたわ、毎度毎度寝起きはどうにもボーっとしちゃうね。
用意されていた服をクレアから受け取り、その場で着替えていく。
……。
……。
ふぅ、いつもの俺の完成だ。
治療用施設を備えたこの専用の施設にはサヨ姉妹の一人が常駐していて、女医である彼女が俺の側に来ると。
『やはり131072分割は厳しそうですね』
そう語りかけて来た。
白衣を着た医者であるサヨ姉妹は、サヨが俺を身体強化した時の義体なのだが、今は人格が固定搭載されているので、ノーマルサヨとはまったくの別個体である。
「んー、慣れてないだけかもしれが……ちょこっと脳に疲れが残る感じもあるんだよな……」
『それでしたら以前の形に戻しましょう』
「いやでもよぉ……」
今でも結構待たせちゃってるしなぁ……。
「駄目だよシマ君、ブレインユニットやサヨ姉妹さん達は、シマ君の体の方が大事なんだからね?」
クレアのその指摘に、女医さんであるサヨ姉妹は頷きを持って答えている。
まぁそうだなぁ、無理して俺が倒れた……りはしないと思うが、疲れを見せたら本末転倒だよな。
「判った、じゃぁ以前の6万分割に戻そう」
『畏まりました、装置の調整はしておきます』
そう言って女医なサヨ姉妹は治療ポッドの側で仕事を始める。
彼女らは自分の仕事を全うするべき時は、すごい真面目に仕事をするんだよね……。
「じゃぁ俺達は帰るよ、調整よろしく」
『はい、お疲れ様でしたシマ様』
治療ポッドの側で空間投影モニターを出して作業をしているサヨ姉妹からの挨拶を聞きつつ、クレアと共に治療施設を出ていく。
……。
サヨの本体である兵站用補給艦の中で、その動線である通路を歩きながらクレアと打ち合わせを始める。
「シマ君、次の予定はどうする? 疲れているというのならキャンセルしてもいいのだけど……」
「大丈夫だって、疲れたといっても徹夜一回分くらいだから、それに予定は詰まりまくってるだろう?」
「そうだけど……うーん……まぁサヨ姉妹さんも特に何も言わなかったし、一徹分の疲れならそこまででも無いかぁ……」
「そうそう、一徹なんて……どうしようクレア」
「ん~? どうしたの? シマ君」
「……いつの間にか徹夜が当たり前になって居る俺が居る」
「え? 私も近衛の将校をやって居た頃から二徹三徹なんて当たり前だったし……世の中なんてそんな物では?」
……。
……うーむ、俺は宇宙の常識にあんまり詳しくないから、そういう方面ではクレアを頼りにしていたのだけど……。
もしかして、クレアも有る意味では非常識な可能性がワンチャン……。
「サヨ!」
俺がそう通路を歩きながら大きな声で呼びかけると。
歩いている俺とクレアに追従する様に空間投影モニターが前面に出て来る。
微妙に透けて前面も見えるので安全だし、こちらの歩く速度にぴったりついて来て見やすい位置をキープしている優秀な空間投影モニターさんだ。
その空間投影モニターにはサヨの上半身が映し出され。
『どうしましたシマ様?』
顔を少し傾げつつ聞いて来るサヨだ。
ちなみに今日のサヨは他の作業の監督役とかで、義体が側に居なかった。
……けども、あいつはずっと俺を監視……見守っているので、呼びかければ即参上する。
「宇宙での徹夜に対する一般的な常識を教えてくれ」
『……そうですね、皇国時間を取り入れている種族は多いですので、それに合わせて生活をする方を一般とすると……身体強化をある程度している場合、仕事で二徹くらいは当たり前、という感じでしょうか?』
あうち……。
そっかぁ……身体強化が当たり前になると、仕事のブラック化も進む……いや、人より多くの仕事を熟せるから一般的には良い事なのか?
「うーむ……宇宙的感覚だと、滞在惑星での一日を基準に生活リズムを合わせる事が少なくなって来る? という事か?」
「ああ、そうだねぇ、惑星時間はこう……マイナーな文化を大事にする人用かなぁ?」
クレアが俺の疑問というか考え方に同意を示してくれた。
なんつーか……。
身体強化はそういう……夜になったら寝ましょう的な文化を壊しちゃうのかもな……。
つまり宇宙は一日という概念が薄いというか、そういう事をあんまり気にしない世界なのか……今更そんな事に気付くなんて……。
宇宙ってのは、ほんと広くて、新しい事が知れる世界だなぁ……。
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