第53話 季節感なんて宇宙にはあるのだろうか?
「え~という訳で何故か十日で完成してしまった巨大施設な訳ですが、ひとえにこれも――」
「シマ君、わざと長い挨拶をしようとしてない?」
「あ、はい、では『お肌プルプルプール』の開幕となります、皆怪我をしないように遊んでくれ!」
俺がそう挨拶を終えると、周囲にいた大量のブレインユニット達や側付きやらが歓声をあげながら水着でプールに飛び込んで行った。
「すごいな皆」
俺がちょっと呆れた感じでそう呟くと、俺の隣にいる白のビキニ水着を着たクレアが返事をくれる。
「この日を楽しみにしてたからねぇ……といってもまさか十日で完成すると思わなかったけど……」
「それな」
おれもクレアの困惑の感想に同意しておいた。
全会一致で決定した化粧水プールなんだが、強い……それは強い要望により、俺のリゾート惑星のリゾート街の近くに最優先で作られる事になった。
建設にかなりのリソースを集中した結果、わずか十日での完成に至ったこの施設、広さは野球場10面以上の敷地面積を誇るプール施設となった。
まぁ需要というか行きたい人が一千万人いるので、これでも狭いんだけど。
数十万人ずつで順番に使って貰えばいいね。
バシャバシャと水を飛ばし合いながら楽しんでいるブレインユニット達、その飛び散った雫だけでうん万円するやらしないやら……。
さすがにちょっと費用の事を考えると眩暈がするので、プールの脇に置いてある寝椅子に寝転んだ。
「シマ君は遊びにいかないの? お肌プルプルになるわよ?」
「ああ、クレアも俺の事は気にしないで行っていいよ」
「そ、そう? じゃ、じゃぁ……ちょっとだけ行って来るね!」
クレアはそう言って近くのプールへと駆けて行った。
ずっとソワソワしていて、クレアの可愛い尻尾が挙動不審だったからな、俺なんて気にせず行けばいいのによ。
『正妻としての矜持でしょうね』
わ! びっくりした……。
俺の寝椅子の片隅に座って来たのは、黒いビキニ水着のサヨだった。
口に出してない疑問に答えるなよ……お前はエスパーか?
「お前もいかんでいいのか? サヨ」
『いつでも堪能できますから、それよりシマ様は大丈夫ですか? こんな美女の水着だらけなのにお元気が無さそうで心配です』
数十万人の女性が居る訳だしな、あっちもこっちもポヨンポヨンしていて、すごい眼福では有るんだけども……。
「このプールに使われている、例の奴の経費を考えるとな……」
『ああそっちの……全部自前なのだし、気にする事は無いと思うのですが』
「とはいえよぉ、施設を囲む数キロに及ぶ流れるプール、そして波のプール、飛び込み台にウォータースライダー、普通のプールにアスレチックプール、急流下りを模したプールもあるか……それらに使われている量を考えるとな……」
『樹人十数人分の残り湯があればいけちゃう訳ですが』
「効果を持続させる為には常に入れ替えるんだろ?」
『確かにそうですが、こちらは一万人分の樹人の残り湯が手に入るのですよ? シマ様はいつまでたってもお金持ちの様な振る舞いに慣れませんねぇ、それがシマ様だと言われればそうなんですけども』
……そうか、買う事をどうしても考えちゃうけど、大量に余った物を有効利用していると思えば……。
「元が庶民の出だからな、そういやこの化粧水って使い終わった後に垂れ流しちゃっていいのか?」
どんな成分だか知らんが、何某かの処理をしてから捨てるんだろか?
『……何故そうなるのかは聞かないで下さいね』
「ん? 何がだ?」
サヨは非常に納得のいかない表情をしている。
『使い終わったあれを海や川に流すと……惑星が元気になります……』
「ん? 今なんて?」
惑星? 個人じゃなくてか?
『……聞かないで下さいと言いました、元々あれの成分は私では調べられないのです、皇国でも誰も解明出来てない品物で……考えると頭がチクチクするので、この話題はやめましょう』
珍しいなサヨがここまで嫌そうにする事なんて……まぁ嫌がる事を突いてもしょうがない。
「そうなるとだ、この一回のプール開きでかかる経費なんかは聞かない方が俺の精神の為になるとして……さっきお前はこう言ったな? 『ああそっちの』と……じゃぁそっちじゃない方ってのは何なのかがすごい気に成るんだ」
俺の嫌な予感センサーに引っ掛かった、サヨの何気ない一言が非常に気に成っている。
その話になるとサヨは先程までの嫌そうな表情から、世界が平和で本当に嬉しいっといった感じの笑顔を……俺には判るけど他人には判らないかもな笑顔を浮かべ。
『はいシマ様! それはですね? シマポイントを使ってシマ様と遊びたいという子達が沢山居まして』
ああ、そういう話だったか。
「……ふむ、そういう話か、なら俺も寝ていられないな、いいぞ、順番に引き受けるぞ」
『さすがシマ様です、ではあのウォータースライダーにてペア滑りをして頂きます』
サヨがプール施設の端っこにそびえたつ巨大な塔を示した……。
あんまり触れない様にしてたのに、ここで来るのか……。
「ペア滑りか」
『はいシマ様、ペア滑りです、密着して滑るので背中が幸せになる事間違いないですよ? 勿論シマ様が後ろから抱きしめる形でも良いですけど』
いやそれは嬉しいっちゃ嬉しいんだが……問題はだな。
「あの高さが100メートル以上あって、最初の落ちる角度が急角度ですごい速度が出そうなウォータースライダーでのペア滑りだよな?」
『はい』
「あれさぁ、コース途中の曲がり角のカーブの外側に、不自然に水深が深めのプールがいくつも設置してあるのは何でだ?」
『勿論、コースから空中に飛び出てしまった時の着水用です! ご安心下さい、計算はばっちりしてありますので、地面にぶつかる可能性は小数点以下9桁まで排除済みです』
「ゼロじゃないのかよ、っていやまてまてまて! その言い方だと地面じゃない方へは普通に飛び出るって事だよなそれ! そもそも飛び出す事を前提に計算するなよ! 怪我したらどうすんねん」
計算するべき場所を間違っているんじゃないかと思うのは、俺だけか?
『……はて? 今の身体強化されたシマ様とブレインユニット達なら、例え途中でコースから空中へ飛び出ても、ペアの飛び込みのごとくな100回転50回ひねりくらいの技を見せつつ、華麗に着水出来ると思うのですが?』
……ん? ……んーっと……あれ?
「……ほんとだ、いけちゃう気がする、どうも自分が超人的な身体能力持ちなのを忘れちゃうな俺は……」
『ですね、折角ですし、飛び出た時の空中でのペアの飛び込み演技と着水の華麗さを点数付けもしておきますね、素晴らしい演技の場合表彰しましょう、優勝賞品はシマ様とペアでの高級ホテルのお泊り宿泊券という事でどうでしょうか』
……それだと皆が皆、途中からコースの外に飛び出したがらない? 大丈夫? 俺はちゃんとウォータースライダーのゴールまで滑って行ける?
とはいえ、シマポイントを使用して来る子達をがっかりさせる訳にもいかんか……。
「そんな遊びもありか……しかしあの高さまで登るのが大変そうだよな、勿論階段じゃなくてエレベーターが設置してあるんだよな?」
『基本はそうですが、シマ様を待つ順番待ちの子達の事を鑑みて』
「鑑みて?」
『シマ様だけは迅速にドローンで運ぶ事に成りました』
「へ?」
俺がサヨの言葉に間抜けな一言を返した瞬間だった。
ガシっと複数本の足の生えたドローンに掴まり、俺は一気に空中へと運ばれていく事になった。
まるで銀河ネットのゲームセンターでやったクレーンゲームの商品のごとく……。
『行ってらっしゃいませシマ様、ゴール地点や落下地点にはドローンを配備しておきますので、ご安心を~』
「あーんー-しー--んー---でー----きー-----るー------かー------」
俺に向かって手を振るサヨの姿は、あっという間に小さくなって行った。
てかこのドローンの腕がすっごい細くて怖いんですけどぉ!?
もうな、絶対に! ぜー---ったいに! あいつの『ご安心下さい』は信用しねぇからな!!!
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